魔法のお勉強-03
●これが僕の魔法だよ
取り敢えず、初級の片方は自己治療だから呪文だけ。
「今ぞ禍の書に捺されし拇を解かん。
甦れ我が力 雷の水。自己治療」
発動は成功し、青い光が僕を包んだ。
「震は亨る万里の彼方。事めを有ちて喪う事無く。
送れ 雷の雷。伝送通信」
サンドラ先生がにやける。僕が送った絵を見たんですね。
先生ったら本当に幸せそうな顔をして、
「うふふっ。師弟のけじめを着けるため、今まで仔犬ちゃんと呼んでいたけど。これからは名前で呼んでいいかしら? あなたがその気なら。私、何時までも待つわ」
と締まらない顔をして微笑んだ。
不審に思ったネル様が、
「スジラド。何送ったの?」
と聞いて来たので、同じものを送り付けた。
にんまりとしながら、ネル様も。
「あはっ。ねぇスジラド、これって反則よ。んー。どうしてもって言うなら、考えてあげない事も無いけれど。もっと頼れる人になってね」
と反応が返る。
「おーい。何送ったんだよ」
「うん。女の子なら一度は夢見る幸せだよね」
いいつつデレックにも同じものを送る。
「……おいおい。お前なぁ!」
デレックは呆れ声。
「うふふっ」「あはっ」「おいおい」
伝送通信大成功。
先生・ネル様・デレックの目には今、僕が送った純白のウエディングドレスの画像が映っている。
●出藍の誉れ
「で、そんな仔犬ちゃんにご褒美よ」
先生は一対の青い魔石を嵌め込んだ腕輪を僕に手渡した。
「仔犬ちゃんくらい窮理を究めれば、色々出来ると思うの。あなたの遣える魔法と被るけど、雷の魔法が窮理の究め方に応じて使えるようになるの。やって御覧なさい。あなたの智嚢次第で幾らでも力を引き出せるわ」
「はい。前から考えて居た事を試してみます」
先生の手が僕の頭をゆっくりと撫でた。
「先ずは攻撃」
頭を下げ、構えた腕を胸元で左手を外にして交差させる構えを取り、身体を雷の力から絶縁。左の手に正の電荷を、右の手に負の電荷を蓄積する。
そこから両腕を上げ拳を打ち合わせて左右に開き、連続的に電荷を移動させる。イメージは光の国の巨人の光線技だ。
そしてプラズマと化したエネルギーを、赤い人のスピアのイメージに象って、鏡の人のナイフのように投げつける。
ドドーン! 閃光と共に標的にした地面が破裂した。
「凄いわね」
とネル様も言うけれど。信じる力の出所は僕の前世の黒歴史からだろうね。冗談でやってみたら成功しちゃった。欠点は準備時間が長くかかり、魔力の消費が激しい事。
「次に防御」
イメージを高めるため、フレミングの左手に指を開き磁界を発生。ここから先は科学に基づいた半分妄想。
砂鉄を引き付けて身体に装着したり、身体の周りを土星の輪のように高速で走らせ回転防禦。
派手だけれど実際には、矢を反らしたり、槍や剣の突きをほんの少し外したり、刃物の切れ味を落としたり程度。砂鉄装着だって打撃を分散したり、厚みで矢の刺さりを浅くしたり、多少刃の切れ味を落とす位の効果はあるみたいだけど見た目ほどの防御効果ない。
だけど先生もネル様もデレックも、こんな事が出来ること自体驚いていた。
「これは飛び道具かな?」
磁力で浮かべた用意の鉄釘を高速回転。そしてリニアモーターの原理で発射する。ご存知レールガンって奴だ。
ただ加速は距離に比例するから至近近距離だと投げつけるのと変わらない威力だし、遠距離だと中々命中しないんだよね。僕としては帯に短しタスキに長しって技だ。
勿論、目一杯これを浮かべたら敵への牽制には持って来いだけど。
「そして、中から丸焼きにする技」
所謂電子レンジのあれだ。同じ場所にマイクロ波を照射し続けなくちゃいけないから、普通は料理位しか役に立たない。
「武器を加熱する技」
金属に誘導電量を起こしその抵抗熱で熱くする技。そうIHヒーターの原理だ。知らない相手には通用するかも知れないし、これも料理には使えそう。
「一種のバリア……もとい、障壁かな?」
今の応用で、誘導電流で武器内部に生じた磁気と外部の磁気を作用させる。
えーと、児童館で小学生に体験させる、プラスチックの下敷きの上に置いた一円玉を下からネオジム磁石で動かすあれ。それでも刃筋を微妙にずらすこと位は何とか出来るかな?
「うーん」
他にも一応レーダーみたいなものも出来そうだけど、下手に使うと仲間に危害が加わるよね普通。
「何悩んでるの、凄いじゃない」
ネル様は言うけれど。自分が今一と思う内容で誉められるのは微妙だよねー。ただ、工夫次第でバリエーションを増やせそうだ。
「どうやったらこうなるんだよ?」
理解できず当惑気味のデレックに僕はハッキリと口にした。
「サンドラ先生と先生の蔵書のお陰だよ。それを元に色々考えてたら出来ちゃたんだ」
実際には現代日本の科学知識と、僕の黒歴史からだけどね。だけど、
「あらあら? マジックアイテムの遣い方では、直ぐ仔犬ちゃんに抜かれちゃいそうね。先生嬉しいわ」
手離しでほめるサンドラ先生。
「これで私も一流の教育者ね。自分に勝る弟子を育てるのは教育者の誉れよ」
なんの含みも無く言い切ったよ。
僕が一通りの技を披露し終わると、
「いよいよ俺の出番だな」
デレックがポーズを着けながら前に出た。





