魔法のお勉強-01
●僕は魔法使いだ
新宇佐村ってどんな所だろう? 心は加速して行くけれど、その前にやることが沢山ある。
何より、まだ魔法が使えてないじゃないか。
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魔法は非常識な存在なり。
発現するまでは一切世界の法則に影響を及ぼさぬが、発現と同時に世界の法則の影響を受ける。
魔法の根源たる原初の魔力は、万能であるがゆえにそのままでは何も影響を及ぼすことが出来ぬ。
それらを世界の法則の枠に捉え体系立てた物が、イズヤの書における八大系統なり。
元来魔法は種族固有のもの。けれども賢者イズヤによって、ヒト種のみが制約を超えん。
イズヤが魔力を法の下に統べしこそ、今に伝えて魔法と称す。
世の理を変えし者、イズヤを仰ぎて魔法神と讃う。
されど世人は畏れ魔神と呼び、世人は恐れ邪神とも呼ぶ。
ヒト種は魔法神イズヤの名の下に、先祖が交わした盟約により血統により連綿と魔法を受け継ぐ生き物であり、潜在・顕在二つの魔法因子を内に持つ。
子は父の一つと母の一つを受け継いで、普通はいずれか一方を顕在す。
稀に二つの因子の重なりて稀有の才を持つ者あり、彼は早成し名人となる。
稀に相克する者あり、彼は大器晩成す。
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毎回初めに唱えさせられるから覚えちゃったよ。
魔法で重要なのは信じる力。迷いや疑いが入り込めばそれだけで魔法は弱められる。
だから盲信に近い程、魔法を信じて已まないネル様の力が著しく、醒めた僕はそれ程でも無いのだろう。
デレックのは……。あれは父方母方の力がほぼ同じ強さで相克しているからこそだから、諦めずに訓練を続ければ、いつか両方とも使える日が来るかもしれないと先生は励ます。
霧箱検査から一年、座学と瞑想と魔力制御に明け暮れた。
七歳の儀の後も幾つか訓練方法が加わっただけの代わり映えしない魔法のお勉強。
もしも、知識さえあれば適性と違う魔法を使えるマジックアイテムを使っての実習と言う物がなかったら、デレック以外はとうに投げ出していたかも知れない。
自分で発現させる魔法については、根気の無い人だったら諦めてしまうような基礎訓練。武術の稽古なら走り込みや素振りや杭への打ち込みや型稽古に相当する物ばかりを、毎日毎日続けて来た。だから、
「今日から自力の魔法使用を解禁します」
サンドラ先生の宣言に僕達は、
「「「やったー!」」」
と一斉に飛び上がった。
さて、その魔法だけれど。
これまでずっと魔法を使いこなすための知識と魔力を練ったり集めたりは遣って来た。
マジックアイテムで魔法が発動する時の魔力の抜け方とかも疑似体験して来ている。
だから僕はこんなことも出来る。
「ええぃ!」
土の力、風の息吹、火の猛り、水の漲り。僕は真空ポンプをイメージして、各所に力の空白を作り上げる。
するとそこに染入って来る世界の力。あとはフィルターを通せば良い。
練り上げられた火の猛りを右の手に、純粋な水の漲りを左手に。風の息吹を背に負って、土の力を胸の前に集める。
今の所、何種類もの力を分別しながら同時に集められる子は僕だけだ。ネル様は風に特化して純粋な風は集められるけれど、他は不純物が混じってしまう。デレックはなんとか不純物の多い火を集められるだけ。
「素晴らしいわ仔犬ちゃん」
魔力制御に関しては、手放しで誉めるサンドラ先生。
必要に応じて魔力をマジックアイテムに渡せば、意のままに使えると先生は云う。魔力は燃料。純粋な力がハイオクガソリンなら、不純物が多いものはレギュラー、あるいは軽油や重油が混入していると思って良いかもしれない。燃料がそれだから、使い手を選ぶ安定術式の入って居ないマジックアイテムの使用で僕は群を抜いた。
さらに、魔力の結晶である魔石の制作に不可欠な力の純化については、僕が精留塔をイメージして行った所、なんと全種類サンドラ先生の物より優れた物を作り出しちゃった。
先生が産み出す魔石は高品位の下。なのに僕は高品位の上から最高品位の下を精製できるのだ。
因みにデレックは全て等級外で、ネル様は風の魔石だけ高品位の下で他は低品位がやっと出来る程度だと言うのに。
「とぅ!」
自分を中心に魔力その物を放出する。一瞬周りが歪んで漣のように広がって行く。
力は圧倒的にネル様が上。二段ほど落ちて僕、辛うじて出来る程度がデレックだ。これらは魔法の威力に関わるから、魔法使いとしての適性はネル様がダントツ。反対にデレックはとっても不利だ。
その分デレックは剣術修行に熱心で、今では僕なんぞは守りに徹してチャンス待って耐え忍ばないと、あっと言う間に一本取られちゃうほどの腕前になってる。
相変らずの責め達磨なので、疲れを待って反撃すれば僕にも勝ち目は残っているんだけれどね。





