七歳の儀-14
●ハリーの手紙
一見して金の掛った紙。普通の紙と手触りが違うし、当主紋章の透かしが入っている。
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茂る青草の月。
天地の栄る御代に生れし幸 恵みの風を思う頃
やあスジラドは元気かい? 僕もシアも相変わらずだ。
そろそろ試験の結果が届いていると思うけれど、君の事だから歳に似合わぬ結果だと信じているよ。
僕の適性は御算用者で魔法適性は『山』、特別な守護は付いて無かったけれど行学所への推薦状を貰ったよ。と言っても、家は腐っても刀筆の貴族だからね。君が思うより大した事は無いのさ。
ところでシアの事だけど。あいつはなんと神託を司る『沢』の加護を持って居た。しかも魔法適性が『水』なのできちんと学べば治癒の魔法も使えるようになる。
これは神殿に仕える者としては得難い賜物でね。その場で権侍祭にされちゃってそのまま神殿に囲われちゃったよ。
でも、これでシアは自分の力で運命を切り開くことが出来る。ちゃんと修行について行く事が出来たなら、どんなに拙くとも司祭長までは約束されているんだ。司教だって夢じゃないよ。
おっと。神殿の事なんてよく知らないと思うから説明するけど、神殿の位階は下から大まかに、侍祭・助祭・司祭・司教・大司教。司祭以下は権や長が付いたりしてもっと細かく分かれるよ。
世俗だと助祭が男爵、司祭が子爵で司教が伯爵相当の身分だからね。だからどんなに凄い事か判るだろう? 侍祭は騎士爵に相当するんだぜ。
まあ、同じ歳で君は既に従騎士だから。シアの自慢は妹故の闇だと笑って貰いたい。
シアと五年後に会う事があれば宜しく頼む。
幸くませわが友
時維参伯伍拾玖年伍月弐拾参日 ハリー・ヤガミ 拝
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●伯爵からの手紙
ネルの御父上からの手紙を読む。読み進めるに連れ、手が震えた。
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咲い匂う荊の月。
御稜威益々弥栄に 闇退きぬ夜短かの頃
でかした我が一の臣よ。下級文官免状取得の報を聞き、我が事の如く嬉しく思う。
過日の功名に加えこの快挙。是を以て之を見るに、汝は我が大姫を託すに相応しき者也。
とは謂え、汝を賞すに齢足りず。後の褒賞を手翰を以て約すべし。
我に辺境の一邑有り。食邑三十戸、ノズチ五戸の寒村にて名を新宇佐村と謂う。
汝、カッサンドラ師の元に研鑽を積み、而じて刀筆の能をば力試しせんと欲するなら。村を治むる土豪アレナガ・ウサに与力すべし。
汝に之を贈りてん。
時維参伯伍拾玖年陸月弐日 カルディコット伯フィリップ 不宣
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「えーと。これって、村の統治に参加しろって事? 七歳の僕に?」
突っ込んだ僕にサンドラ先生は、
「今直ぐとは書いてないわ。私の元でお勉強を進めてからって書いてあるでしょ?
新宇佐村と言うのは宇佐村の分村開拓地で、確か仔犬ちゃんの知行に当ててる村だった筈よ。雇ってる家来一人と戦の時付けられる手下のイヅチを養っている村でもあったわね」
初めて聞いた。なにせこの一年、サンドラ先生に付いてお勉強漬けだったからね。雇わなきゃいけない家来とかも、全部伯爵様任せ。全部伯爵家の文官がやってくれてた。
尤も、何も知らない子供がしゃしゃり出る術もなかったけどね。
「良い機会だわ。不宣とあるから断る事も出来るけれど、仔犬ちゃんの家来やいざという時指揮しなきゃいけない手下なんだから、何れは出向いて狎れない程度に親しくして来るといいわ」
サンドラ先生は僕に勧めた。





