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七歳の儀-12

●見取り稽古

 光がさっと降りて来た。靄は無く視界良好。しかし山の影はまだ暗く、そこだけが見え難くなって居る。モノクロの風景は次第に鮮やかさを増し、世界は彩取られて行く。

 本来ならば旅人は、とっくに歩いて行かねばならない時間なのだが。神殿まで歩いて行くのは七歳の子供達。夢を食べて大きくなり、眠りを啜って伸びて行く真っ盛り。目覚めの時を待っている。


 そんな中、僕達は見る。朝日を脇に浴びて向かい合う二人を。

 片やクレイモアを手に右とんぼに構え、片や素手で左緯右経の十字星を象って狙いを定める。一見すると武器を持った方が圧倒的に有利に思える対戦だが、それは開始早々に間違いだったと思い知らされた。


 武器の間合いは素手よりも遠い。そりゃ道理だよね。武器は腕の延長なんだから。

 だけど武器自体を標的とすればそこに差なんか無い。アルスさんが繰り出すクレイモアの平を素手で殴りつけ、振動を与えることで制御できない一瞬を生み出すと、そのまま間合いを詰めて一撃を叩き込むデュナミスさん。

 踏み込んだ瞬間、杭に大槌を叩きつけた様な振動が僕の肌に響いた。僕がアルスさんだったら、この時点で負けていただろう。


「えぇっ!」

 僕は目を擦りたくなった。アルスさんったら振り回されかねない重さの大剣を以て、意図的に振り回される形で自在に距離を取ったかと思えば。あ、これひょっとしてアンバックってやつ? クレイモアの重さを利用して空中で回避行動を取っちゃってるよ。おまけに地面に接した大剣を軸に瞬時に方向転換なんかしてる。


「う~ん……」

 頭が追い付かなくて頭を抱えるデレック。

 常識で考えれば素手の方が機動力を生かした攻撃を仕掛けそうなもんだけど、この場においては逆にその場から動かず、迎撃という形で戦いを挑んでいるデュナミスさん。見た目、黄門様の殺陣(たて)のようだ。


「うわぁ~」

 ネル様が引いちゃってる。うん、僕もこの場で常識が崩壊しちゃったよ。

 アルスさんの宙を舞い縦横無尽に畳み掛ける姿、伸びたり縮んだりしているように錯覚させられるデュナミスさんの手足。まるで出鱈目な中割りで作られたアニメを、過剰なフラッシング演出で見せられているような気持ち悪さだ。

 僕達のようなひよっこに、はっきり解る事は事は唯一つ。この人達人間じゃない!


 見取り稽古と言う名の二人の腕試しが終わった時、僕達は乗り物に酔ったように具合が悪くなっていた。


●僕の報告

「どうでした?」

 馬車で移動しながら、サンドラ先生が七歳の儀について聞いて来た。


――――

 そうだね。思わぬトラブルで出発の遅れた僕達が神殿に到着したのは、昼下がりの頃だったかな。

 神殿は人が慌ただしく動き、そして騒がしかった。

「どうしたんだろ? 只事じゃない様子だけど」

 辺りを見回したんだ。そうしたら、

「ねぇ、巫女様が脱走された? そう聞えるよね」

「大丈夫なのか? この神殿」

 受付を待たされている苛立ちもあるのか? 僕の言葉にデレックは毒づいてたよ。


 うーん。かれこれ二十分は待たされたよ。

「お待たせしました。こちらにどうぞ」

 って言われて、僕達は試験を受ける部屋に案内された。


 初級試験は、


・読み書き

 ・自分の名前を書く

 ・絵に書かれた物の名前を書く


・算術

 ・同じ数の物を線で繋ぐ

 ・絵に書かれた物の数を数えて書く

 ・二桁までの足し算引き算


 上級試験は


・読み書き

 ・四百文字の仮名書き文章を漢字混じりで清書。

 ・千文字程の報告書の要約文と見出し作成。


・算術

 ・最大五桁の四則演算

 ・分数・小数の計算

 ・グラフ作成と読み取り

 ・面積計算

 ・複利計算

 ・伝票の帳簿記載


・教養

 ・過去三代の皇帝陛下の(いみな)と治世概要

 ・クオンの主要都市の位置と名前

 ・オーカ・ヤティコ神の十二戒


 そうだね。大体こんな内容だったよ。


 因みに後者は合格すれば下級書記免状を貰え、これがあると国や貴族に雇って貰えるんだって。

 実際には神殿関係以外では、コネが無いとなかなか雇って貰えないらしいけどね。


 うん。筆記試験が終わった後、面談が有ってお勉強とは直接関係ない事を色々と聞かれた。

 内容? 五枚の絵を出されて筋道が通る様に並べなさいとか。十数える間見せた絵を伏せて、内容について質問されたりとか。多分性格や頭の良しあしを調べてたんだと思う。


 そしてその後暫く待たされて、四十人くらいのグループで木登り・かけっこ・石当ての試験。

 僕もデレックもまあまあの成績だったと思う。因みにネル様は石当てでパーフェクトを出して、一緒に受けた子供達からの尊敬を集めてたよ。

――――


 僕だけが報告してるけど仕方ない。色々と疲れていたんだろうね。僕の横でネル様とデレックが寝息を立てている。それをわざわざ起こすの可哀想だもん。


「調べて貰ったけど、ネル様は風の加護を受けていて風の魔法の達人になれる人なんだって。デレックはあんまり魔法の適性がなかったようだけど、僕は雷の適性が凄いんだってさ。

 それと試験の結果は、近々先生のお(うち)に届けるって係の人が言ってたよ」

「皆、頑張ったわね」

 と先生は優しく笑った。


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