七歳の儀-03
●意地悪問題
ここにもあるんだ。
コーンパイプを咥えた道化師人形が目印のパチモンハンバーガーショップ。魔物肉百パーセントのパティが売りのお店。そう、奈々島にもあったマック・アーサーだ。
「ここにしましょ?」
先導するかのようにネル様が中に入って行く。店の作りは奈々島と同じだ。
口の端をケチャップで汚しながら豪快に齧り付いているのは、上等でピッタリの服を着ている男の子。多分貴族の子供なんだろうから、こう言うジャンクフードは物珍しさもあるのだろう。目を生き生きとさせて居る。
あちらの泣きながら食べているのはコーヒー豆の袋を綴った様な短い丈の服を着ている女の子。こちらはモノビトの子かな? ジャンクフードってそこそこ美味しいからね。
身体に合わない古着や、接ぎ当ての服を着ている子達の様子は両者と比べると平然としていた。
結構混んでいるので、僕達は先ず席を確保。丁度良い丸テーブル席を見つけて椅子の上に荷物を置いた。
「七年かぁ。あのピーピー泣いていた赤ちゃんが、今ではこんな立派なレディになっているんだものなぁ」
「いやいやチャック様。それは身内の欲目ってもんだぜ」
チャック様の言い様にもじもじしているネル様が、デレックの否定にむすっとする所を、
「結婚できない相手だからこそ。冷静に視れると言うのもあるさ。妹で無けりゃ口説いている所だよ」
とチャック様は切り返す。
ネル様と言えばこの間、ぽっと成ったりムカッとなったりと百面相。
「あ。注文するとこ空いて来たよ」
なんだかネル様が可哀想に見えたので、僕が話を打ち切った。
「皆どうするの?」
先生の問いに
「セットでいいんじゃねーか? 割安だし。早く食おうぜ」
とデレックは言う。
「みんなそれでいいわね? 一旦あたしが払っとくわ」
注文経験者のネル様が仕切るけれど、誰からも異存は出なかった。ただサンドラ先生が、
「ポテトを単品で一つ頼んで、皆で分けましょう?」
と言ったので合わせて注文する。
「バーガーセット五つにポテト一つ」
「全部で二十七エムになります」
「あっれ~?」
聞きなれない単語に、ネル様は可笑しな声を上げた。
メニューを改めると。
バーガーセットが五エムでそれをばらした単品、バーガー・ポテト・ドリンクなどがそれぞれ二エム。
ハッシュドポテト。オレンジジュースもトマトジュースも、ミルクもタンポポ茶もラッシーも全て二エムの統一価格。デザートのポテトケーキなどが一エムと書かれていた。
「エムって何かしら?」
ネル様が声を上げると、店員のお姉さんが
「貰ったお財布の中を見て御覧なさい。神殿の聖域で、子供にしか使えないお金が入っているの。
一番大きなサイズの邪神様の肖像のお金がエル。中の大きさの稚さき者の守護神様の肖像のお金がエム。そして一番ちっちゃい武神様の肖像のお金がエスよ。一エルが十エムで百エスになるの。
成人の儀では貴族でもモノビトでも全員同じ。三エル十八エム二十エスだけ入っているわ。神殿にたどり着くまでそれをどう使うか。それも含めて成人の儀よ」
と親切に教えてくれた。
「先ずはお金の確認だね」
チャック様の提案に僕達は頷いて、財布を改めて数えてみるとのネル様が教えて貰った通りのお金が入っていた。当然、全員の分支払って来たネル様の財布の中味は減っている。
ここでサンドラ先生は、一つの問題を提示した。
「割り勘にすると、幾らずつになるかしら? 姫様とデレック君に仔犬ちゃん。あなた達三人で考えてみて」
「えーと。二十七エム払って五人だから……。五エムと四エスね!」
ドヤ顔で胸を張るネル様。
「本当にそうかしら?」
不安がらせることを言う先生。
「五枚でいいんじゃね? ポテトは先生の注文だから奢りでしょ?」
「ほんと? 本当にそうなの?」
デレックの答えにも先生はそう聞き返し、
「ではチャック君はどうかしら?」
と回答を促す。するとチャック様はこめかみに指を当て考え込むと、ポンと手を打ち、
「なるほど。でも割り切れませんね」
と答えた。
サンドラ先生はくすっと笑い。
「ちょっと意地悪問題だったかしら」
どうやら算数ではなかったようだ。でもそうすると……。
「あ!」
「あら、仔犬ちゃんは気付いたみたいね。お答えは?」
僕は確信を持って答えた。