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論功行賞-06

本日は0時7時21時の3回更新です。

●早く早く

 師匠の屋敷の明かりは電気ではなく魔力の灯りを灯し、ネル様の屋敷とは違った魔法の道具があちこちに用いられていた。

「これ全部マジックアイテム?」

 目を丸くするネル様に、

「そうよ。特別な物は置いてませんけれどね」

 さらりと先生は肯定する。

「先生ってお金持ち?」

 率直に僕が訊ねると、

「研究でかつかつだけど、貧乏ではないわね。それに殆ど材料費だけだから」

「じゃあ、全部先生が!」

「ううん。半分位かしら。買った方が安いのもあるのよ」

 先生は、早く魔法教えてと言うネル様に圧されて、授業の為の部屋に僕達を連れて行った。


 机と椅子。そして教壇教卓に緑の黒板とチョーク。

 色と言い配置と言い、僕には懐かしい風景がそこにあった。


●魔法の小箱

「魔法は宝石です。生まれながらに光り輝く真珠もあれば、泥だらけのダイヤモンドの原石もあります。価値の違いは有るけれど、正しく扱わなければ真珠もくすみ、磨かなければダイヤは光を放ちません」

 こう始まるサンドラ先生の魔法の授業は、概論から始まった。


「人が使える魔法は天・沢・火・雷・風・水・山・地の八系統。先ずは自分の属性を知る事から始めます」

 サンドラ先生は透明なガラスのような窓の付いた小箱を僕達に見せた。

 箱の大きさは子供の掌に乗っかる程。窓は匁銀貨位の大きさだ。窓から覗ける中は真っ黒いフリースが敷かれているように見えた。


「正確な属性鑑定や将来の見積もりは出来ないけれど、今直ぐ使える大まかな力はこれで測れるの。万が一、亜神並みの力を込めても、ただ強い力があると判るだけで爆発したりしないから安心してね」

「そんなぁ。亜神並みの力なんて……」

 ネル様がくすりと笑う。


「それと反応がなくても単に今使えないだけに過ぎないから、お勉強を止めちゃうのは無しよ。どんなに頑張っても魔法を使えない人は居るけれど、誰でも知識を蓄えればマジックアイテムの力を強力に引き出すことが出来るのは判って居るんだからね。

 それに、ずーっと魔法が使えないまま三十年頑張り続けて、歴史に残る大魔法使いになった人も居るんです。諦めたらそこで終わりよ」

 くどい様に念を押すサンドラ先生。それだけ芽が出ない人が多く、途中で諦めてしまう人が多いってことなんだろうな。


「使い方は簡単。こうして机の上に置いた小箱を両手の掌で挟むだけ。そして左手から小箱を通して右手に血が通っているのを想像して下さい」

 へー。何だか電気回路みたい。そんなことを考えて居ると、

「そうすると……ほら!」

 窓の中を雪が流れるように、ゴマ粒程の紺色の光の点が左から右に動いて紺に輝く筋を残す。

 へー。こうして魔法の力を見る事が出来るんだ。まるで霧箱で放射線を観察してるみたい。

 僕は窓の中を見入っていた。


「さ、最初に(ひい)様どうぞ」

 先生が手を離すとたちまち光点も光の筋も消えて元に戻る小箱。

「こう……するの?」

 恐る恐る手を触れて試みるネル様。

 すると鮮やかな米粒程の緑の光の点が、先生と同じように動いた。違いは点の大きさと流れる点と筋の多さ。

「凄げぇ!」

 声を上げるデレック。

「姫様は恐るべき素質を持っていらっしゃいますね。色も一等鮮やかです。恐らくは正属性も副属性も同じ風でしょう。お勉強を怠けさえしなければ、将来必ず一流の魔法の使い手に成ることが出来るでしょう」


「はいはい! 先生」

 身を乗り出したデレックが、次は自分と名乗り出た。サンドラ先生は微笑んで、

「ではデレック君。どうぞ」

「へっへ~ん。皆驚くなよ」

 意気揚々と試みたが、

「おーい! おーい! 出ろよ俺の内なる力!」

 何の変化も現れない。

「デレック君。これも魔法関係だからイメージが大事なのよ」

「そっか、イメージか」

 デレックの再挑戦。色々とそれっぽい極めポーズを試してみてるけど、箱の中には全然変化が現れない。

 そんなデレックを見ていると、なんか戦隊モノに憧れる幼児みたいに思えて来た。

 そんな彼を生暖かい目で見ていたサンドラ先生だったけれど。とうとう待てなくなったみたい。

「あー。デレック君。頑張ればいつか使えるように、なる……かも知れないから」

 気の毒そうに先生は言った。


「最後はスジラドだね」

 ネル様が促す。

「うん」

 僕は魔法使えるのかな?

 小箱を両手に挟んでイメージする。

 うんそうだ。右手がプラスで左手がマイナス。そして箱が豆電球。

 小学三年生で習う、最初の電気回路を思い浮かべる。うん、これが一番僕にはしっくり来る。

「え? 何これ!」

 先生ともネル様ともデレックとも違う物が、窓の向こうに映っていた。


 窓から見えるのは、髪の毛みたいな細さだけれど青く輝く光の筋。

「仔犬ちゃんの属性は雷なのは間違いないけれど、線になるってこんなの初めてよ」

 首を傾げるサンドラ先生。

「因みに伝説の勇者様は?」

 ネル様が訊ねると、

「大豆位の光の点が矢継ぎ早に打ち出されて、仕舞いには窓が塗り潰された。と記録にあるわ」

「亜神様だとどうなるの?」

 なおも尋ねると、

「窓全体が光り輝くの。これも古い文献に残っているわ」

「へー。じゃあ、スジラドは普通の人間よね?」

 どっちでも無いからとネル様は言った。


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