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論功行賞-01

●報告

「閣下。姫様が救出されました。密かに招いた産婆の診立てによりますと、無事純潔は護られた由。そしてご慧眼の通り、彼の者が『月光』を抜き放った事を確認致しました」

 ネルの実父フィリップに目深にフードを被った男は報告した。

「目撃者は?」

「彼の者が懲らしめた賊共が、『抜刀』したことを知っている模様です」

「判った。捕らえた賊は全て殺せ」

 フィリップの命令に、

「タチバナ家やブルトン家の者が、背後を探って行っておりますが」

 と男が意向を伺うと、フィリップは即座に決断した。

「構わぬ。一人残らず始末しろ」

「御意」


「ところで、スジラドが率いた孤児達は目撃しているのか?」

「いいえ。抜いた後の接触はございません。寄子や寄騎の兵達とも知りません。彼の者は、私の前で納刀しました」

 冷徹な光を(ひとみ)に宿して訪ねるフィリップに、それは無いと報告すると、駄目を押す様に目撃者を消せと暗に命じる。

「あるいは遁れた賊もいるだろう。あれを知る者が他に居ないか、今後も念入りに調べよ」

「はっ!」

 答えた男は、来た時と同じようにふっと掻き消えるかのように居なくなった。


●呼び出し

 気付くと、ネル様が僕を覗き込んでいた。目は真っ赤なウサギの目。少し鼻も朱を帯びて、瞼は少し腫れていた。

「おはよう」

 涸れた声でネル様が言う。ネル様の目からぽたりぽたりと涙が落ちて、僕の頬を伝って耳に入る。

 耳から心に忍び込むように、声に成らないネル様の気持ちが伝わって来た。


「ここ……は?」

「あたしのベッドよ。寝心地良いでしょ?」

 確かに程好く柔らかい。首を動かすと見覚えのある風景。確かにここはエッカートの館、ネル様のお部屋だ。

「帰って来たんだ」

「うん。スジラドのお陰でね」

 いつもの元気溌剌とは違うネル様の顔。訝しんでいると、コンコンとドアが叩かれた。


「いいよ」

 ネル様の声が返るや否や、

「おぅ! やっと目を覚ましたか。ネル様ったら、一晩ずっと看病してたんだぞ」

 デレックが入って来た。

「目覚めたんならスジラドに男爵……もとい、伯爵様からのご伝言だ」

「僕に?」

「直ぐ来いとさ。なんでも直々にお話があるそうだ」

 なんだろう?

「スジラド起きれる?」

「起きろよ。俺が手と肩貸すぞ」

 心配するネル様に、強引に手伝ってくれようとするデレック。

 僕は身体を起こそうとした。

「ひゃっ! はははははははっはー」

 声にならない息が、笑い声の様に口から洩れた。


 腕が痛い、肩が痛い、首が痛い、背中が痛い。脇腹が痛い、腰が痛い、太股が痛い、足首が痛い。

 とにかく全身痛く無い所がないって感じに激痛が走った。

 本当に痛い時は、痛いって悲鳴そのものが出ない。笑ってしまうと言うのは本当だった。

 それでも呼ばれているんだから行かないという選択は無い。

 涙と脂汗を流しながら、デレックに支えられてなんとか起きてなんとか歩く。

 最初の一歩が辛かった。だけど幸いなことに、一旦歩き出したら足が動いてくれる。


 介添えされて廊下を渡り目にした館の雰囲気は、何だかとっても暗かった。

「一体何なんだよなぁ。このお通夜みたいな雰囲気は。折角ネル様が帰って来たんだってのによー」

「そうだね」

 デレックの言葉に頷くネル様。

「もっと喜ぶはずなんだぜ。それなのに、何だか戻って欲しくなかったみたいな雰囲気だよな」

 多分悪気は無いんだろう。だけど余りにも無神経過ぎるよ。

 ほら、ネル様落ち混んじゃったじゃないか。


 ゆっくりと移動する間に、ネル様のお父上の泊まっている部屋から大股で伝令らしき人が出て来るのを見た。

 開け放たれたドアの向こうから、

「入れ!」

 と僕達を呼ぶ声がした。


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