ネル様を助けろ-13
●闘いの終わり
駆け付ける人攫い達。
「あのガキどもを全力で捕らえろ。俺は襲撃者を蹴散らしに行く!」
呼ばわった手練れは、僕達を他の男達に任せてこの場から離脱する。
やはりこう言う集団では腕っぷしがものを言うのか、疑いもせず従う人攫いの男達。
「坊主。大人しく捕まれば、手荒な真似ぇ……わー!」
躊躇いなく突っ込んだデレックに田楽刺しにされる気の良い男。
デレックは突き通り抜けなくなった剣を捨て、蹴飛ばし様にそいつの腰の剣を抜いて奪った。
「鋳造か……。だが贅沢は言ってられねー」
デレックは素人相手に通用した無双を再開する。
僕達にとっては幸運。あいつらにとっては不幸なことに、増援達は大きな勘違いをしている。
襲撃で混乱した所にあの命令だから、僕らを捕らえて人質にして敵と交渉するのだろうと思って居るのは間違いない。
あーあ。攻め重視が過ぎるからデレックが危ない。と思った次の瞬間。僕は転移するかのように混乱の最中にある人攫い達を斬っていた。
増援全てに身動き出来ぬ傷を負わせ、通路を確保した僕の身体は、逃げ出した手練れを追って走って行く。
『今映像を送る』
すると視界の横の邪魔にならない所に、半透明のウインドウのようなものが開いた。白黒の映像はこの辺りを空から眺めたようなものだ。そうか。これ多分、チカの仕業だ。
えーと。何? この軍勢。アンやリョウタ達の外側に、ここを包囲する夥しい兵士の姿。
漁師が網を絞るように、少しずつ包囲の輪を縮めている。
そして、あそこに見えるのは確か、必死にネル様を探して街道を何往復もしていたブルトン男爵公子。
そうか! ネル様の援軍だ。この勝負、僕達の勝利だ。
「ケーン!」
薄らいで来た霧の中に響くチカの声。
遁れようととしている手練れまで、障害物も無く直進百メートル。
だけど僕がたどり着く前に、茂みから現れたフードを被った男の人に、
「ここは行き止まりだ」
と、通せんぼされた。
「畜生! 折角宝刀を抜ける奴を見つけたのにこんなところで終われるか」
自慢の剣術を駆使して、なんとかフードの男を斬り捨ててこの場を遁れようと試みる。しかし呆気なく初撃を返し技で往なされた。
「そ、その術は……」
「阿呆な渡世の割にはまだ、免許皆伝の腕前は鈍っては居ないようだな」
「ならば俺にもチャンスがある」
声に力が甦る手練れの人攫い。
「どうかな?」
フードの男は後ろで左手に持ち替えた剣で掬い上げる様に剣を一閃。
「こん……な、子ど……だ……ま……」
手練れな人攫いは真っ二つになり、血煙の中に斃れた。
「一門の恥さらしめ。そうよ、所詮子供騙しよ。されど秘すが術。免許皆伝でも伝えぬものがあるのは、貴様のような奴を討つためよ」
その一部始終が、チカの力によってスジラドに伝えられた。
「お主。その剣は……」
やっと追いついたスジラドは、真っ二つに切り分けられた骸を前にしてフードの男に剣礼を取ると、血振りをして平然と納剣した。
その時スジラドの気配が変わった。幼い身体に百戦錬磨の古強者の『氣』を宿していた彼から、歳相応の面構えに戻る。この時スジラドの意識と身体が完全に繋がり直した。
そこへ追い付いた仲間が、
「スジラド! すげーぞお前」
デレックがライトを押し退けて駈け寄ると、逆転ホームランを放ったバッターを迎えるような激しい洗礼。
「お見事です」
手放しでほめるライトに、
「スジラドありがとう」
ネル様の心からの感謝。でもご褒美が、
「今度奈々島で、マッカーサー奢ってあげるよ」
この程度なのは子供の限界。その代わり、ネル様にむぎゅーっとハグされたのは子供の特権かも知れない。
ぐらりと世界が揺れて、皆の声が次第に遠退く中。ほっと息を吐き出したスジラドの意識は、墜落するように失われた。





