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ネル様を助けろ-08

本日は0時7時21時の3回更新です。

●遣い手

 今までの奴らとは存在感が違った。体の軸が小動(こゆるぎ)もしないのだ。

 そんな男が、剣の切っ先をデレックに向けライトを睨みつけて牽制する。

 移動してもぴったりと、剣の先を喉笛に合わせられたデレックは、踏み込むタイミングを掴めず動きを制された。

 ライトの方も急に動きが悪く居付いてしまう体たらく。

 デレックとライト、二人の無双の流れは一人の猛者の出現によって断ち切られた。


 ふっと男の剣先が外されると、デレックは吸いこまれるように飛び込んで行ったが、

「ほらほらどうした? 突きは切っ先を外すだけで刺さらんぞ」

 何度やってもデレックが突き出した剣は、魔物素材でもなさそうな単なる柔らかい革手袋を嵌めた手で払われて男を捉える事すら出来ない。

「それ、一丁!」

 切っ先外しと同時に為された足払いに、勢い余ってズズーっと身体で床の拭き掃除をするデレック。


 デレックを守る様に、入れ替わりに斬り付けるライト。だが、

「あうっ!」

 剣の通過する直ぐ横に入り込まれ、剣の鍔で殴りつけられ、まるで横綱の胸を借りた序の口のように派手な尻餅を搗いてそのまま後ろへ三回転。もうマンガかと言いたくなる実力の差だ。

「剣の筋が素直過ぎて丸見えだ。お上品なお坊ちゃまらしく外連味けれんみねーのは良い事だが。今の倍早くても剣の下すら潜れるぞ」

 挑発とも指導とも言える言葉を吐く男。

「まるでマンガみたいだ」

 思わず僕は口にしていた。


「強ぇー」

「なんで!」

 相手が強いと言う事だけは判るけれど、それがどれだけ強いのか、実力に開きがあり過ぎてまるで見えやしない。って言うか。この人どう見ても遊んでいるよ。

 当に子供と大人の闘い。デレックもライトも、二対一の闘いなのに圧倒されて身を護るのがやっとだ。

「どうした孺子(こぞう)。上には上があるんだよ」

 こいつ遊んでる。その気になれば一瞬で二人を斬り捨てられるのに甚振っている。どう見ても明らかに、何かの流派を身に付けている。

 さっきまで二人は、剣術で力任せの大人の力を制して来た。でも(わざ)(わざ)がぶつかるならば、今までの有利は消滅する。同程度の(わざ)でも大人の力が二人に勝る。しかも(わざ)すら敵の方が勝っているのだ。


「ガキが! 遊びは終わりだ」

 カラン、カラーン! 手を剣の平で打たれた二人は、あっけなく剣を落としてしまった。

 敵を睨みつけながらも、親指を抑えて唸る二人。

「打っただけだ。砕いてはおらん。だが暫くは剣を握れまい。己の未熟を喜ぶがいい、親指を切落さずともあしらえる程度の未熟をな」

 それでも怯まぬデレックを剣が襲う。一閃した剣の平が彼の顎を掠めると、デレックはふらふらになってその場に倒れる。

 そして男は、怯んだライトの腹にブーツの爪先を叩きこんだ。


「さーて姫様。大人しくして頂きましょうか? おっと、おチビちゃん。勇ましいのは感心だねぇ。ご褒美に、君には優しいご主人様を探してあげるよ」

 剣を構える僕達に、ゆっくりと近づいて来る


「力を抜いて樹に為るのです。剣は卵のように握り、幹から生える枝のように構えなさい。動きはゆっくりと、当たる瞬間に力を込めて、足・腰・胸・肩・肘・手と全身を使って当たりなさい」

 師匠の言葉を思い出す。

 賊に浮かぶ驚愕の(いろ)。手首が返り、刃筋が僕に合わされる。

 僕は迫る初撃に剣を当て、外に反らしながら喉笛を狙って繰り出して、賊の首の血脈を捉えたと思った瞬間、

「あぐっ!」

 お腹に衝撃を食らい宙に浮かんでいた。剣が手を離れ、あらぬ所へと飛んで行く。


 音の無い空間で、ゆっくりと空中を漂う僕の目の前でゆっくりとネル様に迫る賊の剣が、ネル様の剣に叩き付けられ根元から断ち切るのを僕は観た。

 その直後。背中に受けた衝撃と、ピカっと光る視界。そして音が戻って来る。


「降伏しろ」

 ネル様の首に刃を突き付け、デレックとライトに迫る賊の声を聞きながら、僕の意識は薄れて行った。


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