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ネル様を助けろ-07

本日は0時7時21時の3回更新です。

●従者と貴族

 いきなり年上の男の子に義姉上(あねうえ)様と呼ばれたネル様は、大きく目を(みは)った。

「えーと、ライト様? あたしはお兄様の婚約者じゃ……ありませんわよ」

 いつものように言い掛けて、途中で言葉遣いを改めるネル様。

「え?」

「確かに、お兄様は求婚者のお一人としてお会い致しました。ですが、その日わたくしの父が引き合わせたのはあなたのお兄様お一人ではございませんわ」

「……そうですか」

 ライトは何か思う所があるのが見え見えの態度で下を向いた。けれども直ぐにその目に光を灯し、

「ならば、僕にもチャンスはあると言う事ですね」

 一瞬僕達が凍った隙に、ネル様の手を取り甲に口づけする真似をするライト。


「ええっ!」

 再始動したネル様が、声を上げる。慌てて二人の間に割り込み、

「なにすんだよ!」

「お前なんかネル様に相応しくない」

 ライトを押し退けるデレック。

「僕が部屋住みだからか? だったら、功名を上げて一家を起す!」

「足りんな。ネル様を高々寒村の(あるじ)の奥方にするのか?」

「ならば、兄上を蹴落としてタチバナの家督を奪い取ってやる」

 ケンカ腰の二人をネル様が、

「よしなさいよ二人とも」

 必死に宥めている。

 あれ? なんだかデレックも普段と違う。ムキになって唾を飛ばすデレックに、護衛の乳母子(めのとご)と言うより、幼馴染の兄貴分と言うより、もっとしっくり来る言葉が僕の脳裏に浮かんだ。


「ねぇ。急いでここから脱出しないと。少しは人攫いやっつけたけれど、まだまだ敵は残ってるよ」

 僕が突っ込むと、

「そうよ。そんなことよりこの場をどうにかしなさい」

 とネル様が同意する。

「そうだったな」

「ですね。今は言い争ってる時じゃありません」

 さっと変わるこの場の空気。こんな恋の鞘当てをやってる場合じゃないと醒めて行く二人。

 そしてそれは、近づく足音によって決定的になった。


「こっちだ! 姫が逃げるぞ!」

 僕達を見つけ、剣を構えて仲間を呼ぶ人攫いの声は、

「キェー!」

 気合と共に身体ごと突っ込んだデレックによって停止させられた。

 足蹴にして剣を引っこ抜いたデレックは、

「拙い。集まって来やがる」

 霧の中に浮かび上がる人影を目に留めた。

 デレックは叫ぶ。

「こいつの剣を拾えライト! ネル様を護るんだ。生き残れたら、少しは認めてやる」

「それは嬉しいですね」

 剣を拾いデレックと並ぶライト。鋳造のなまくらだが、賊と戦うには十分だ。

「君にもネル殿にも、僕の腕前を見せて差し上げましょう。おーいそこの君。ネル殿を頼むよ」

「スジラド! お前が最後の砦だ」

 ライトとデレックは僕にネル様を託した。確かに、ネル様よりも体の小さい僕が前で壁となって斬り結ぶのは無理があるからだ。


「凄い……」

 そう表現するしかない、ライトとデレックの連携。

 恐るべき突進力でデレックが身体ごと突っ込んで敵を斃す。それで体勢の崩れたデレックをカバーして斬り付けるライト。デレックに有効打を浴びせようとすると、漏れなくライトの攻撃を食らう状態になると言う位置取りだ。例えるならば、ドイツ空軍のロッテ戦術。とても出たとこ勝負の即席連携とは思えない。

 トーン! と音高く踏み込むデレックの突きが、賊の皮鎧を貫いて(はらわた)を抉る。

 肉が剣を咬む前に、捻ってポンと空気を入れてやりながら、前蹴りと反動で距離を取って防御姿勢。

 一般に腹は動きが少ない大きな的、しかも骨が邪魔をしない。だから鎧を貫くことが出来たなら容易く剣を通す。しかし心臓や喉笛とは違い、まだまだ敵は戦う力を残しているのだ。


「どうだ? 俺はこれで五人目だ」

「ちょっとは周りも気にして下さい。僕が居なかったら三回は死んでますよ」

 軽口を叩きながら戦う二人。


「ぶっ殺す!」

 賊が振り被って切り下げて来る所を、

 キーン! ライトが払って正面をがら空きにする。そこへ、

「トース!」

 体重を乗せて繰り出すデレックの突きが肩口に突き刺さる。

「ちっ!」

 抜きに手間取るデレックを襲う剣を、

 カン!

 ライトが抑え手の甲を打つ。

 そこへ割り込んで来る別の賊の横薙ぎを潜って、デレックはそいつの脛を削る。


 幸い人攫いの多くは力任せに振り回す剣。敵を殺す為に磨かれた武士(モリビト)の剣術の敵ではない。流れ作業をするように始末されて行く、襲い掛かる人攫い達。

 ライトとデレックは、二人合わせて熟練の双剣使いの剣の如く敵を確実に屠って行く。効率が良過ぎるので、全然二人に疲れは見えない。

 このまま行けば僕の出番など、もう永久にあり得ないように思えて来た。


「このまま賊を全滅させて、俺達で賞金山分けにするか?」

「いいですね~。僕も一旗揚げる元手が増えます」

 人買いはヤクザな商売だが、決してそれ自体犯罪ではない。罪に当たるのは、誘拐して売り飛ばす人攫いだ。

 犯罪者の捕縛や駆除には賞金が出るし、個別に賞金首になっている者も居る。斃せば決して馬鹿に出来ない金額になるのだ。


 でも、獲らぬ狸のなんとやら。デレックとライトは所謂フラグと言う奴を立ててしまったのかも知れない。

「ガキが。粋がるのはこれまでだぞ」

 そう言って隙の無い男が到着したのは。


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