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ネル様を助けろ-06

本日は0時6時18時21時の4回更新です。

遠目鋭目(とおめとめ)

 霧や煙を無視して、鳥の視点で見る地上。色は無く白黒の画像だけれど、辺りの地形が手に取る様に僕には見えた。

『チカ! どっちだ?』

『左三十度。槍を持った大人』

 白黒の映像の中に重ねる赤や黄色に蠢くもの。これが人や獣の出す熱だ。

 剣で払って飛び込むと、切っ先が鎧に弾かれた。

『ありがとう』

 仔馬がそのまま体当たりを掛け、吹っ飛ばされる人攫い。


『降りろ。ねぐらの入口まで直進五十メートル』

『解った』

 ネル様とデレックの武器を抱えて下に転がる。賢い仔馬は僕が下りた後も、足元も見えない大地を駆け、朝霧を一直線のナイフになって切り裂いて行く。

 パカラッ! パカラッ! パカラッ! パカラッ!

 お椀で地面を叩いたり、手拭いで石礫を降らせたり。仔馬に合わせて子供達が上手くやってくれている。


 パサっと僕の肩にチカが舞い降りた時、チカの見ている物がより鮮明に僕の頭に飛び込んで来た。

 そう。僕は白黒の輪郭に熱の色が加わった画像を観ているんだ。


『樹の影に賊』『了解!』

 低い姿勢で飛び込んで、下から剣を突き上げる。股間の草摺りを潜って入った剣が致命傷を与えた。

「な、ゴブリンが裏切った……」

 駆け抜ける僕を小柄な魔物のゴブリン間違えたまま、賊は血の海に沈んで行く。


『右に五歩ズレろ』

『了解!』

 ほぼ同じ体格のゴブリンの横を、僕はチカの誘導ですり抜けたり。

『空堀の幅二メートル。跳べ!』

『えーい!』

 行く手を遮る堀を飛び越えたり。

『来る。屈め』

 ねぐらから駆け付ける賊をやり過ごしたりして、漸くねぐらの入口に辿り着いた。


 誰も居ない開け放たれた入口から中に入って行くと、椅子に縛られた三人を見つけた。

「ネル様!」

「スジラド?」

「今、(いまし)めを解きます」

 ネル様・デレック・知らない男の子の順にナイフで縄を切る。

「ありがとう」

 武器を受け取りながらネル様は言った。

「遅いぞスジラド」

「デレック。何よその態度」

 むすっとしたデレックを(なじ)るネル様にデレックは、

「こいつ、目と鼻の先にある俺達放って逃げたじゃないですか」

 と噛みついた。しかし、

「無茶を言うな。あれは僕だって判らないぞ。組んだ丸太の中から見えても、外から中は見えないものだよ。それにこうして助けに来てくれたじゃないか」

 見知らぬ男の子が言う。

「みなさい。この子だってあたしと同じ意見よ」

 ネル様と男の子の二人から睨まれたデレックは、

「判ったよ! スジラドありがとな」

 渋々って感じてお礼を言った。そして、自分の剣を剣帯に着けると、

「兎も角これで戦える。ネル様、こっからは任して下さい。スジラド、斬り抜けるぞ。俺の後ろに付いて来い」

 たちまち背筋もしゃんと伸びて、駄々っ子から頼もしい兄貴分に変貌する。


「あ、あのう」

 横から男の子が声を掛けた。

「僕も少しは使えるんで、武器が有れば回して欲しい。デレック殿が先鋒を務めるなら、義姉上(あねうえ)を護る人も居ると思う」

「あねうえ?」

 ネル様が男の子の顔を見る。

「あたし末っ子だとばかり思ってた。弟が居たなんて知らなかったわ」

 背も少し上で、僕には彼がネル様より年上に見える。


「あ、いや。兄上の婚約者なら、義姉上になるのですが……」

「へ?」

 首を傾げるネル様に男の子は、

「義姉上様。申し遅れましたが僕はタチバナ伯爵の次男、ライトと申します」

 恭しく騎士の礼を取った。


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