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ネル様を助けろ-04

本日は0時6時18時21時の4回更新です。

●導きの星

 サンジさんが居なくなって暫くすると、静まり返っていた(たま)を作って寝ている子達の方からは、静かな寝息が聞こえて来た。

「まあいいや」

 リョウタとアンもこのまま寝かせておこう。


 空を見て方角を確かめる。北の空に青白く輝く二つ星。天帝を守る将軍星だ。それを目当てに二つの星の距離を五つ伸ばした所。その星が空の中心・天子星だ。


「悪りぃ! 眠っちまったようだ」

「あたいも気が付いたら寝ちゃってた」

 リョウタとアンは文字通り跳ね起きて、僕に謝る。

「気にしてないよ」

 と言ってあげると、

「あれ? スジラドその鳥は?」

 やっとチカに気付いたアンが身を乗り出して来た。

「この仔はチカ。さっき僕と契約結んで友達になったんだ」

「「いつの間に!」」

 リョウタとアンは声を合わせる。

「あのなぁ。簡単に言うけど、魔物は魔物使いしか従わせられねーんだぜ。普通」

「そうだよスジラドあんた、いつの間に?」

 普通はあり得ない事らしく、訝しむ二人。

「出来ちゃったものは出来ちゃったんだよ。それより……」

 僕は空の一点を指した。

「導きの星が輝きを増している。もう直ぐ夜明けだよ」

「ほんとだ。朝開き星が光ってる」

 アンは目を瞬かせた。


 南の空の東側、水平線から十度の高さに、小さい点だが満月よりも明るく輝く黄金の星がある。他の星が北の天子星を中心に一日掛けて回転するのに、導きの星はずっと同じ位置に留まって輝き続けるのだ。

 この星は夜明け前の一時間、益々輝きを増す。このため別名を『朝開き星』と呼ばれている。


「もう直ぐ今日も朝霧が上って来ると思うよ」

 毎日、河で発生した霧が夜明け前にはここいらを埋め尽くす。

「皆を起して、森の方へ移動するから」

 リョウタとアンは頷いた。


●敵襲

 その日。朝霧に交じって焦げ臭い煙が人攫い達のねぐらを包んだ。

「なんだ! 野火か?」

 だとしたら対応しなくてはならない。うかうかしてると火に巻き込まれる。

 おっとり刀で動き出した男は、突然後頭部に衝撃を受けてその場に倒れた。その直後。

 パカラッ! パカラッ! パカラッ! パカラッ!

 夥しい蹄の音が霧の中に響き渡る。


「敵だ! 敵襲ぅ~!」

 その声に、剣を抜く音が一斉に起こった。

「ぐえっ!」

 駆け抜ける騎馬から繰り出された突きが人攫いの一人の喉笛を抉った。

 シュン! ……ピィー!

 (つるぎ)鳴滝(なるたき)に一拍置いて、甲高い虎落笛(もがりぶえ)が血の臭いと共に響き渡る。

 馬が駆け抜けて行った直後にピュー! と指笛の音。雨のように降って来る石礫。そしてまたピュー! と指笛の音。

 そうかと思えば、

 ヒュン!

「ぐわ!」

 通り過ぎた馬の後ろから、見えない敵が鋭い爪で隣の男の顔を抉った。


「くそ。敵はどこだ!」

 霧の中に浮かび上がる小さな影。

「ごぅら! ゴブリンども。勝手に出歩くぅ!」

 こめかみに衝撃を受けふらふらになった男が片膝を着くと。

「わりぃ~な。おいらゴブリンじゃねーんだよ」

 天秤棒を左手に持った子供が、紐で持ち手をぐるぐる巻いた石の欠片で首の血脈を断ち切った。


 パカラッ! パカラッ! パカラッ! パカラッ!

 あちこちから響く蹄の音。

「戻って来やがった!」

「げふっ!」

 首に箸サイズの小さな竹槍のような物を生やして斃れる仲間。

 敵はどこだ。霧に浮かぶ人影に、人攫いの男は斬り付けた。

 どさっと斃れた人影に

「ざまぁ見ろ!」

 と男は吐き捨てたが、

 パカラッ! パカラッ! パカラッ! パカラッ!

「あぅあ~!」

 後ろから来た馬に跳ね飛ばされて宙を舞う。馬自体を武器とした体当たり。馬当てと言う攻撃法だ。


「くそっ!」

 幸い大した怪我も無く起き上がり掛けた男だが、

「死ねや!」

 霧の中に現れた人影の繰り出す槍に突き刺された。槍は左の肩口を通り肺腑を抉って右の脇に突き抜けた。

 不思議と痛みは感じない。

「ぐわっほ」

 血を吐きつつも振り回した剣に、

「ぐへっ!」

 人影の脛に食い込む手応えを感じると共に、男の意識がふっと掻き消えた。


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