ネル様を助けろ-01
●助けに行こう
半日と言ったのに、今日で三日目。
行く手に見える奈々島の街は、正しい道を教えてくれた。けれども道は遠かった。
蔓草を見つけては、切って滲み出る水を飲み。朝露を集めて喉を潤し。食べれる草を摘み野うさぎを狩り、道なき道を助けた子供達と歩き続ける。
逃避行だから火も焚けず、夜は交代で不寝番の子を除き、固まって球を造るが如く一つに固まって眠る。
幼い子や女の子を中にして年嵩の男の子が外を囲んで守っている。中に入って周りの子から温めて貰える子が脱いだ服を、外側の子が布団代わりに重ね掛けして、仲間の体温で暖を取る。スラムでもやっていると言う寒さを防ぐ子供達の知恵だ。
幸い魔物や野の獣にも、盗賊の類にも遭遇せず。雨にも遭わず、やっとのことで河まで辿り着いたスジラド達は、そこから河に沿って下る。右手に上り下りの船や舟を眺めながら河原を歩き、昼過ぎには奈々島の関に到着した。
「じゃ、おいら達はここで。おいらはリョウタ。困ったことが有ったら力になるぜ」
天秤棒で戦った子が手を振った。スラムの住人でも奈々島の住人には違いない。薪拾いなど仕事で外に出る事も多いので、見知った役人が居るのだと言う。
ぞろぞろと、スラムの子供達が移動して行く。街の中を行き交う人々。道端である行商人の世間話と言う情報交換をしている声がリョウタの耳に飛び込んだ。
「スラムで攫われた姫様と若様が戻って来ていない? ちょ! おっさん! それいつの事だ」
大声で質問する。
十分後。
スジラドはスラムの孤児達に囲まれていた。
「姫さまってネル先生?」
スラムの女の子の一人がスジラドに聞いて来た。先生と呼びながら、年恰好はネル様と同じくらいの女の子だ。
確か名前はアンと言ったっけ。
「あの日、スラムで行方不明になった貴族のお姫様は一人しかいないんだって。ねぇスジラド。助けに行くの?」
スジラドの目を覗き込むアン。
「うん。助けなきゃ! だってあそこに置いて来ちゃったんだもん」
スジラドがそう言うと、
「どうやって! あいつら大人で力があるし武装してる。こちとら武器も無いんだぜ」
ネル様が戻ってきていない情報を伝えたリョウタが吐き捨てた。
「ちょっと……」
スジラドはリョウタとアンの手を掴み、物陰に引っ張ると、
「武器ならある。お願い手伝って」
そしてアンの耳元でお願いした。
「僕と服を取り替えて」
幸か不幸か。係の人はあの時のお姉さんでは無かった。
「あー。盗難に遭いましたか」
元々貴族とお付きの者と伝えてあるし、主人の姫様の服は庶民には見えない。おまけに全員子供なので親切に対応してくれる係の人。
「では、預ける時記した合言葉で確認します。少しお待ちを」
預けた日時とその時名乗った名前を告げると、小一時間して木箱と封印された書付を持って来た係の人は、
「ナポレオンの切り札は?」
封を解いて僕らに聞いた。
「ダイヤの15」
「間違いありません。お預かりした武器をお返しいたします」
こうして預けた武器とお金が戻って来た。
「なぁスジラド。力を貸すのはやぶさかじゃねぇけどよ。武器を返してもらうのに、おいらが居る必要あったのか?」
首を傾げるリョウタ。
「ねー。あたいと服取り替える必要があったの?」
同じくアン。
そんな二人にスジラドは言った。
「僕はネル様のモノビトなんだ。僕だけじゃ返して貰えないよ。アンにはネル様の身代わりをして貰ったんだ。そうすれば、合言葉を言えば返してもらえるから」
「「なるほど」」
二人は頷いた。
武器を携えて戻って来たスジラドを見て、ネル先生を助けに行くと知ったスラムの子供達が、加勢すると言ってくれたり、出来る事がないか尋ね始めた。
「ねぇ。どうしてそんなにネル様の事、気に掛けてくれるの」
スジラドが訊ねると、
「あたい達には蜂蜜の恩義があるんだよね。無茶な手伝いは出来ないし、命を懸ける積りは無いよ。でも、ネル先生の為なら、力を貸すよ」
代表してアンがそう言った。スジラドは、
「手伝ってくれる?」
左から右へゆっくりと首を動かして、スラムの子供達を見渡す。
頷く子、力瘤を作って見せる子、拳を上に突きあげる子。温度は様々だが、皆手伝ってくれる事は間違いない。
スジラドは。意気込むでも無く穏やかな声でこう告げた。
「子供でも盗賊をやっつけられる方法がある。皆が手伝ったくれるなら、きっと出来る。でも相手は盗賊だから危険だよ」
怯えや躊躇いのある子は居ない。スジラドは声を潜めて話を続ける。
「じゃあ。作戦を教えるね」
子供達は身を乗り出して話を聞いた。





