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ネルの調略-7

●ネルの調略


 弓や(つるぎ)()るだけが|攻撃では無い。

 ネルは武器に寄らぬ攻勢を開始する。


「先ずはブルトン」


 地図の赤石に囲まれたブルトン家に自分のおはじきを置く。

 一応は味方と言う事に為っているし、公子は本気でネルに惚れている。しかし、家としては油断のならない相手。こんな包囲網の中にあって、一人男爵家のみがネルの味方を主張できる訳が無い。

 実は実力者? いやいや、そうであればブルトンが赤石に囲まれる筈がない。確りとこちらの攻略に手を打って来ている証拠。

 言わば、こちらに恩を売るため積み上げた勝利の石が、積み過ぎてぐらぐらと崩れ堕ちた状態なのだ。


「こっちは、皇帝陛下(トラトア・ニギ)を利用させて貰うわね」


 ネルは二通の書状で、包囲網に蟻の一穴を通す。


 一通は帝都の役人に宛てた手紙。

 神殿の巡礼路を脅かす賊の跳梁が酷いので、必要な武具と食糧を買い付けを願う物。

 物資の対価と輸送費用。それに陛下への献金と役人への充分な心付けを添えて。わざわざ皇帝陛下の盗賊討伐の勅と、それに伴う下賜品を頂くと言う形式を(こいねが)った。

 経費を除いて市価の五割増しから倍近い金を費やす事にはなるが、これで物資を掠めようとする者は皆、朝敵であると決めつけることが可能だ。

 運送は、ネルの末の兄チャックや、今回クリスが面識を持った権伴(ごんのとも)であるヤマシタ殿やドミノ殿の方に根回しを謀れば良いだろう。


 今一通は味方を名乗るブルトンの当主宛。

 お味方表明への心からの感謝と、巡礼路を脅かす盗賊の取り締まり協力要請。

 右も左も判らない子供のように、無邪気を装い親し気に現当主をお義父様(とうさま)と呼び、公子宛てに添えた(くだり)には、未だ子供の無い事を憂いお家の為に早く公子が室を持つことを勧める内容を(したた)めておいた。


 そして拙いながらも公子に向けて一首を添える。


――――

 たとひ()の (をみな)が産みし 稚児(ちご)とても

 (いまし)()なり が子と愛す

――――


 文字通りに読めばこの意味は、


「もし他の女が産んだ子供と言っても あなたの子供なのです。私の子と愛します」


 と言う真に健気な愛の歌だ。

 しかしオブラートを剥がして言えば、


「いい加減さっさと他の女に継嗣を産ませなさい。応援してるわよ」


 と言う身も蓋もない言葉に成る。


「ネルさんお見事です。

 これで最悪、完全なる政略結婚でブルトン公子と意に染まぬ結婚をすることに成ったとしても。

 寝所を分かつのは容易いでしょう」


 シアはネルの賢い含みを賞賛した。


「次はミハラ伯。こっちは政治的には少し厄介ね。その分、色恋抜きで遣っちゃえるけど」


 ネルや神殿長の見る所、彼が欲しいのはネルその人ではない。母系で相続される宝剣に付いて来る、美味しい所領と宝剣の守護者の称号だけなのだ。


「こちらも、良い夢を見させてあげるわよ」


 ネルはミハラ伯への(ふみ)に「三年、父の喪に服す」と筆を進める。


――――

 服喪の間。(くだん)の荘園は、伯にお委ね致します。


 聖典に書かれてある通り「働き人はその報酬を得る」もの。

 私の義務と権利を代行される伯には、服喪の間の一切の収入をお手元にお取り下さいませ。

 年貢は祖法に則り、オリザのみに対して四公六民以下であれば、お心のままに。


 もしも伯より、私に化粧(けわい)料を送るお積りがあれば、

 私は神にお捧げ奉り、神の御国(みくに)に宝を積む事に致します。

――――


 こちらも被りに被った猫の毛皮を十枚も引き剥がせば、


「宝剣付属の荘園は、取り敢えずあんたに任せるからちゃんと管理なさい。

 あたしに化粧料名目で端金寄越すんじゃなくて、きちんと荘家の取り分神殿に献金しなさいね」


 と、言う鞘当てだ。


「利用しようとするんだから、こちらも利用しなくちゃね」


 笑うネルの口の端がゆっくりと吊り上がった。

 後は、宝剣のミハラ伯爵をスジラドに近づけさせるためにどうにか利用するだけである。


「ずっとお願いしててごめんなさい」


「いえいえ。これも乗り掛かった船ですからね」


 確認するクリスに請け合うのは、権伴(ごんのとも)のヤマシタだ。

 諸侯も迂闊に手を出すと面倒なことに成る立場の彼は、中立的な配達人として行き来するのに都合が良い。

 しかもグリフォン騎乗だから、道中の危険も少なく行き来も速いのだ。


「ミハラとブルトン辺りは、本当はあたしが直に乗り込んで行きたいんだけれど」


 溢すネルだが、グリフォンの二人乗りは速度も落ちて、安全面で難しい。


 そんな折、


「ネルさん。枢機卿(カーディナル)様から、アーティファクトの使用許可が下りました」


 求めていた飛行機械の使用許可を告げに、神殿長が現れた。


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