ネルの調略-6
●神殿の備え
検討を重ね、次第に整理されて行く石の色。
「それでも赤い石が残っちゃうね」
クリスちゃんが十中三程度に削れた赤い石を睨む。
元々城造りに秀でたアレナガ卿の娘な上に、スジラドに魔改造されちゃった女の子だけれど、それはあくまでも防備の構築に限って。護りを識ってて一廉の守将となれても、攻め方はまるで教わって居ない。
元より、籠城が勝利を導けるのは強力な援軍がある場合のみ。それが味方の援軍か? 敵の飢えや渇きか内紛なのか? それとも嵐や雨や冬の寒さなのか?
それはさておき。援軍を待って挟み撃ちや退いて行く敵を討ってこそ勝利が確定する。
状況が好転するまで地形や城塞に拠って敵の攻撃を阻止する守りの戦いは、有利ではあるけれど常に受け身を取らざるを得ない。だからどこから襲われるか判らない状態が続く、包囲されていること自体がもたらす心理的な圧力は大敵だもの。
状況が好転するまで地形や城塞に拠って敵の攻撃を阻止するだけではなく、時にはこちらから逆撃を掛け、敵の安寧を脅かして戦果を上げ、味方の士気を保ち続けなくちゃいけない。
さらに、完全包囲は物資の運び込みが出来ないって事だ。
「シアお姉ちゃん。食糧は?」
そうよね。腹が減っては戦は出来ぬですもの。
「備蓄が三年分。但し、内部に十分な耕作地や見えない畑がありますので、再生産は可能です」
「お塩・衣服の類は?」
塩が不足すると身体がへなっとなって動かなくなってしまう。と言うのはあたしもサンドラ先生から教わってる。昔の籠城戦で、何年も持ち堪えて来たのに服が擦り切れて凍死者が出たから落城したと言う話も聞いた。
「塩は三年分。産出量は僅かですが、神殿領域内に塩の泉もあります。
木綿と麻は大丈夫ですが、羊毛は自給できる程ありません」
「軍需物資は?」
「鉄・銅・鉛合わせて、平時の二年分。薪炭は二年分。但し、神殿内の山から多少は得られます」
うーんと唸るクリスちゃん。
「矢竹もカンカン石もあったよね。それを入れても戦えるのは三年が良い所かぁ」
アレナガ卿とスジラドに、城を築き城を守る一切を叩きこまれたクリスちゃんは今、智嚢を搾り尽くしている。
自分ならどう攻めるか、そしてそれをどうやって防ぐものかと、幾筋もの流れを読み、悪手の枝刈りをやって居る。思考が専守防衛に凝り固まっているんだ。
だからあたしははっきりと言う。幾つかの大枝を断ち切って、読みの助けをする為に。
「そいつらは敵よ。
デレック、そいつらを相手に勝つ自信は?」
「この程度なら十分余裕を持って、こっちから攻めれるぜ」
あたしの要求に満額回答。流石デレック。戦の事なら任しておいても大丈夫そうね。
デレックを見て、あたしの肚は決まったわ。
「それからスジラドを見かけた戦場をマーキングして。スジラドの行動範囲から拠点を絞り込むわ。あとは。
そうね……スジラドが敵対した貴族を片っ端からリストアップして。その貴族と敵対関係…もしくはその貴族が被害を受けた場合に利益を上げそうな貴族の名前も調べなさい。スジラドが戦力を持ってるなら裏で支援している相手もいるはずよ」
今ここに居る人達が、あたしが頼る事の出来る味方。神殿長さんも味方には違いないけれど、立場上表立っては味方出来ない。今度はあたしが攻めて行くんだからね。
あたしは皆を見渡して、言った。
「デレック。私が敵を定めるわ。あなたは剣として私の敵を討ちなさい」
「おう!」
「シア司祭長。神殿が秘匿しているものに空を飛ぶ研究があるはずよね。
使用許可を貰って頂けないかしら?」
「はい。力の及ぶ限り」
「あたし。ミハラ伯爵に直接殴り込みをかけるわ。
あと、武装商人にも連絡を入れて。スジラドの馬車を基にした改造馬車の材料を大至急取り寄せて」
あたしの決意を聞いてデレックがぼそりと口にした。
「如何にぞ黙して、身を滅ぼさんや。か……」
「デレックあんた、言うようになったじゃない。そうよ。黙って滅んでやる道理なんて無いわ。
あたしはカルディコットの大姫。弓の貴族の娘なんだから」
そう。結局は戦って護るだけじゃどうしようもない。攻めなきゃ埒が明かないんだから。
新作始めました。
転生したらタラシ姫~大往生したら幕末のお姫様になりました~
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