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心の旅路-10

●分かたれたネル


 微睡みから醒める乃愛の意識。

 ばっと跳ね上がるように身を起こした乃愛(のあ)は、傍らのお母さんを見た。


乃愛(のあ)心配させないで。さっきまでお医者様が来てたのよ」


 疲れたようなお母さん。


「お母さん御免なさい。ノアどうしちゃったの?」


「突然意識を失ったまま、ずっとそこのお姉さんの手を掴んだまま放さなかったの」


「え?」


 自分が確りと手を握っているのは猫耳帽子のお姉さん。


「えーと。猫のお姉ちゃん?」


「そうよ。覚えてくれてたの?」


 その声に乃愛は、すっきりしない頭で話し掛ける。


「うん。あのね、ノアね。不思議な夢を見てたんだよ。なんでか難しいご本をお勉強してたの」


 くすっと笑った猫帽子のお姉さんは


「どうやらネルさんは還れたようだね」


 と乃愛に聞こえるか聞こえないかの小さな声で口にした。


「ネルさん? それ、もう一人のノアのこと?」


「やっぱり乃愛ちゃんも起きていたんだ」


「うん。ネルちゃんはね。おとぎの国のノアだから。

 でね。それでね。伯爵様のお姫様なんだよ」


 そんな遣り取りを最初は、子供の空想のお話と聞き流していた乃愛の母親だったが。話が進むうちに次第に瞳を大きくして行った。


「割り算のやり方は?」


「立てる・掛ける・引く・降ろすの繰り返し」


 すっと出て来る答え。


 猫耳帽子のお姉さんと乃愛のまるでクイズのような遣り取りは、次第に高度な内容となって行く。


「それじゃ陽イオンの2属は?」


「酸性流水有る所。直ぐ水道角にアスビアン酸。涼し明日午後、暗号全てに伝えよ。

 アンチ直ぐひそ錫族で。スイカ(どう)微訛(びなま)りはどう? だから……」


 覚え方を暗唱してから解き明かす。


「えーと。酸性で硫化水素で沈殿する物。

 錫・水銀・銅・カドミウムの二価 。ヒ素・ビスマス・アンチモンの三価。錫の四価。ヒ素の五価。アンチモンの五価。が全て二属。

 それで、えーっと。アンチモン・錫・ヒ素が錫族で、水銀・カドミウム・銅・ビスマス・鉛は銅族だよ」


 答えてあれ? と言う顔になる乃愛。


 さらに、打ち上げたボールの最高到達点と打ち上げ時からの経過時間を算出させる問題を出された乃愛は、見事に模範解答を計算用紙に記載した。


「乃愛ちゃん! それ、高校のお勉強よ。進んでいたのは算数だけじゃなかったの?」


 思わず声を上げたお母さん。


「嘘ぉ! ノア、夢の中で覚えちゃった!」


 あり得ないことに驚く乃愛。口にしたことの意味もはっきり解っている。


「あらら。ちゃんと乃愛ちゃんにも記憶に残ってるんだ」


「ふふ。ノアが(まこと)先生に習ってたの本当だったんだ」


 にっこり笑う乃愛の顔が、猫帽子のお姉さんを一瞥し、


「じゃあ! 真先生がノアこと好きなのもほんとなんだ」


 勝ち誇る様に駆け出した。ネルの記憶と心の動きが、幼い乃愛に多大なる影響を与えたのは間違いない。


「え? 乃愛ちゃんちょっと待って!」


 駆けだしそうになって猫耳帽子の彼女は諦めた。ここは病院。まだ乃愛の歳なら許されても、大人の姿の自分にそれは許されていないのだから。


 乃愛の母親はお地蔵様に成ったまま、テレビのドラマを見ているような目で、後を追う猫耳帽子のお姉さんの背を見つめていた。


一時帰宅が終わりますので、また暫く間が空きます。

次は戻ったネルの話に続きます。

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