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心の旅路-9

(しろ)(みち)を通って


「では、乃愛(のあ)さん。病室に戻りましょう」


 面会者として来ているケットシーの巫女さんは、あたしの手を取った。

 意識を失ったり記憶が乱れたりするので、送還はなるべく安全な場所で行う必要がある。


「先におトイレも済まして下さいね。二年生にもなって粗相をなさると、残った乃愛さんが可哀想ですから」


 あたしは思わず、


「何よぉ!」


 と叫んでいた。


 しまった。ここは病院だ。さっとあたしに視線が集まる。

 小さな女の子をみるその妙に生暖かい眼差しが、あたしには厳しかった。


 委細は省略するけど、問題が起こらないよう準備万端整えてペッドに入る。


「こっちでも同じ魔法を使えると楽なんですが、心を無にして神官長のアクセスに備えます」


 そして言われた通り、手を握るケットシーの巫女さんの呼吸に合わせ、息を吸ったり吐いたりして行くと。次第に感覚が研ぎ澄まされて行く。

 タンタン、タンタン、時計の音。トックン、トックン、あたしと巫女さんの鼓動の音。

 握る手に熱を感じ、あたかも血が通うように何物かがあたしと巫女さんの間を行き来する。


 いくら時が経ったのだろう。

 あたしはあの、白い空間にケットシーの巫女さんと一緒に立っていた。


「良かった。なんとか成功したようですね」


 ここで見る神殿長の姿は若い。


「あの世界は何? スジラドの前世の世界?」


「似ています。けれど死んでいる筈の人が生きていて、生きている筈の人が死んでいる近いしけれど異なる別の世界と思われます。

 恐らくは爆発の時、マコトは(かえ)りたいと願ったのでしょう。それでシャッコウの力が働いた結果、マコトの心があそこへ飛ばされたのではないでしょうか」


「なるほどね」


 シャッコウの力って、そんな事も出来るんだ。


「ミカちゃん。あちらでは美香さんでしたっけ? あっちのマコちゃんはどうでした?」


「ここでだからノブちゃんって言うけど。あっちでもお兄ちゃんは相変らず。いつでもどこでも、エターナルに変なのは同じよね」


 あたしの知らない話で盛り上がる。


「じゃあミカちゃん。もう暫くあちらに居て、マコちゃんをよろしくね」


「うん。任せといて」


 話を終えた二人が、こちらを向く。


「じゃあ、ネルさん。乃愛(のあ)ちゃんを切り離して、あなただけを戻します」


 目配せすると、後ろからぎゅっとあたしを抱き締めるケットシーの巫女さん。

 神殿長様は、そっと右の手を上に向け、左の手を下に向けた。そしてむんずとあたしの頭を鷲掴みにすると、


「来なさいコーネリア!」


 眞名(まな)を以って呼ぶと共に、スポーンとビンビールの王冠のようにあたしを引き抜いた。


「後ろを御覧なさい」


 顧みると、ケットシーの巫女さんの腕の中に、小さな女の子が抱っこされていた。

 乃愛ちゃんだ。


「お姉ちゃんバイバーイ」


 抱っこされて片手を振る乃愛ちゃんに見送られ、あたしは神殿長様の手に引かれるままに身を任せた。


 ふっと当たりの景色が変わった。


一時帰宅出来ました。

今日明日で区切りまで進めて、また間が開きます。


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