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心の旅路-8

●還る方法


 それからさらに数日経った頃。

 ケットシーの巫女さんがあたし達を訪ねて、


「ネルさん。戻りたいですか?」


 と聞いて来た。


「戻る? あ、ああ」


 暫く乃愛(のあ)でいたから、段々と乃愛があたしって意識になって居た。


「スジラドは?」


「神殿長様が、心が飛ばされて空っぽになったネルさんの身体を押さえています。

 心と体の位置を掴んでいる以上、現在乃愛さんに宿っているネルさんを元の世界に返すことは可能です。

 しかし、お兄ちゃんの身体がどこにあるのか判らないので、まだどうしようもありません」


 つまり、今のままじゃスジラドは戻れないってことね。


「えーと。それじゃあんたは?」


「神殿の方で私の身体を見つけてくれたので、私だけなら戻れます。でも、私を通じて神殿長様が術を使われるので、今戻るとお兄ちゃんの身体が見つかった時、ここと繋ぐことは出来ません」


「じゃあ。帰るのはあたしだけ? 身体がどうのって言ってるけれど、ここに置いておいてスジラド大丈夫なの?」


「お兄ちゃんの場合。一つの身体に複数の心が宿って居ました。その一つが(まこと)さんです。

 お兄ちゃんが飛ばされる時。私はそれに巻き込まれる形でここに飛ばされました」


 あたしはいい加減面倒になって取りまとめる。


「つまりこうね。

 神殿長と連絡が取れた。なので、あちらで身体が確保されて居れば、こっから心を引き上げることが出来る。

 あんたとあたしは身体が確保されていて、心はここだと判ってる。

 だけどあんたが戻ったら、ここの場所が判らなくなって、スジラドの心は戻せない。

 だから見つかるまで、あんたがここに残って居なければならない」


「その通りです」


「じゃあ聞くけど。あたしも残るって選択肢はあるの?

 この短い間に窮理の学びが進んで、新しい魔法を使えるようになったであろうあたしとしては、このまま残るのもありなんだけど」


 するとケットシーの巫女さんは肩を竦め。


「言うと思った」

「当たり前でしょ。あっちなら門外不出か一子相伝の物が、こっちじゃ只で手に入るのよ」


 この際だから手に入る物は洗い浚い持って行きたい。


 するとケットシーの巫女さんは、


「神剣を手に入れたミハラ伯が、神剣の護り手の立場を欲しているの。神剣に付帯する豊かな領地と一緒にね。

 もしもネルさんが帰らぬまま月日が過ぎて、死んだ者と見做されたらことだよ。

 婚約者の一人であることを盾に、死者との結婚まで遣らかしかねないから」


 と実に抑揚のない乾いた笑いで口にした。


「冗談! これ以上露骨な政略結婚なんてないわよ」


「他の婚約者には採れない荒業です。お家騒動でネルさんと距離を置いた家もありますし。

 ブルトン男爵公子はネルさんを愛している余り、未だに側室も愛妾も居ない訳で。

 子供を作る事が義務な彼に、死んだネルさんとの結婚などお(いえ)が絶対に許さないでしょう。

 ミハラ伯が婚約者で有る事を口実に、死んだネルさんを正室にお迎えすると言うのならば。

 神殿はこれを祝福しなくちゃならないでしょう」


「つまり、結婚を止めれるのはあたししか居ないって訳ね」


 顔を伏せるように、ケットシーの巫女の頭がゆっくりと下がって戻った。


「仕方ないわね。学びの途中で戻るのも業腹だけど。書類の上だけとは言え、勝手に妻にされるのも御免だわ。

 で、どうやって戻るの? それと、あたしが居なくなった後この身体、乃愛ちゃんはどうなるの?」


「神殿長様のお話しによると、人格の中心が元々の乃愛さんに戻るだけです。お兄ちゃん同様、ネルさんと共に学んだ経験などはそのままで」


「ふーん。なら、それなりの置き土産をして上げれるのね。お勉強も二年生に追いついたし、細かった食の為に弱かった身体もそれなりには回復したもの。

 今あたしが居なくなったとしても、この後スジラドにお勉強見て貰えるんでしょ?」


「学校のお勉強に関しては、もう心配要らないよ。出来過ぎて苦労するかも知れないのは贅沢な悩みだし」


 取り敢えず乃愛ちゃんに損害はないらしい。


「で、どうすればいいのよ」


 あたしは改めてケットシーの巫女さんに聞いた。


病気療養で、暫くお休みいたします。


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