心の旅路-7
●空を見上げて
外出の翌々日が検査の日。そして更に二週間。
出て来た結果を見て、信じられないって顔をするお医者様。
「良くなって来言います。確かに良くなって来てはいますが……」
お医者様にさえ解らない理由でどんどん良くなってきていると言うし。遅れていたお勉強も追い付いて来たのに。加藤のお母さんは戸惑って居る。
そうそう。国語もちゃんと追い付いたよ。似通ってるから仕組みがちゃんとわかって来た。
ご本の漢字も、例えば「學」の字が「学」になるとか、「樂」が「楽」で「氣」が「気」になって居るだけだし。
あたしがネルとして習って居た真名よりも簡略化されているから、慣れると直ぐ読み書きできるようになったよ。でもちょっと気を抜いたら簡略化する前の漢字を書いてしまうのはご愛嬌で済むみたい。
でも悔しい事に、学校のテストでは通用しない。
「加藤さん。一生懸命頑張ったあなたには、非常に言い難いんだけれど……」
言葉を濁す、病院付属の小学校の先生。そう。たった今国語のテストが返って来た。
算数は、掛ける数と掛けられる数のどちらが先に来るかでお点を引かれた。
国語は、習ってない漢字は使えない。だから今は自分の名前さえ「かとうのあ」って全部平仮名で書かないといけないんだもんね。
そんなちょっとした問題もあったけれど。初期の飛行機関係の専門書からのあたしが必要とする抜き出しも進んでる。
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・行動半径の公式
r=Vの二乗/g・tanφ
従って 旋回径R=2r=2(Vの二乗)/g・tanφ
但し
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V=気速 75kt/h = (1872×75)m/(60×60)s
= 38.8m/s
g=重力加速度 9.8m/(sの二乗)
φ=バンク角
tan5° =0.0875
tan10°=0.1763
tan15°=0.2679
tan30°=0.5774
tan60°=1.7321
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①5°の場合
R=(38.8×38.8×2)/(9.8×0.0875)≒3440(m)
②10°の場合
R=(38.8×38.8×2)/(9.8×0.1763)≒1706(m)
③15°の場合
R=(38.8×38.8×2)/(9.8×0.2679)≒1146(m)
④30°の場合
R=(38.8×38.8×2)/(9.8×0.5774)≒ 530(m)
⑤60°の場合
R=(38.8×38.8×2)/(9.8×1.7321)≒ 176(m)
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横から見ている加藤のお母さんの顔は、驚きを通り越して諦め顔に限りなく近い。
最早、何をやっているのだろうか? と言う目だ。
「乃愛。これ、解るの?」
「うん。二年生の算数より簡単だよ。数2って書いてるご本まで理解してたら、こんなの楽勝よ」
そのままじゃ、実際には何の役にも立たないご本だけれど。こうして窮理に関わって来ると現実の問題を解決する為の道具に成ってくれる。
流体の性質を踏まえた上で、風の力を操れば。あたし絶対出来ると思うんだ。
もしもこの世界で魔法が使えたら。今直ぐにでも空を飛んでみせる自信があたしにはあった。
遅くなりました。
体調不良につき明日はお休みします。
火曜の検査結果次第で暫くお休み(入院)するかもしれません。





