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心の旅路-5

●摩天楼の店


 今はあんまり言わないけれど、摩天楼(まてんろう)って言うらしい。空を(みが)くほど高い建物の事だ。

 壁には一面の窓。乃愛(のあ)ちゃんの知識で知って居たけれど、窓は全て雲母(きらら)じゃなくてガラス製。

 道はコンクリートかアスファルト舗装。でこぼこがせ無くどこまでも平坦に伸びている。


 その道を魔法ではない馬無し馬車が走って行く様は、ここが異世界であることの(あかし)

 どんな原理で動いているのか、乃愛の知識には無いけれど。調べれば解るように書かれたご本があることは知っている。その一つがこれから行く所だ。


 そんな文明の進んだ世界の中に一つだけ違和感がある。

 首輪を着けてはいるけれど、さっきからずっと脚の長い犬があたし達を()けて来ている。

 不思議なことに、周りの人もスジラドも。あんな目立つ犬が放し飼いになっているのに騒ぎもしない。


 目が合うと、犬はぷいっとあちらを向いて居なくなった。


 それはそうとして。

 小規模な摩天楼の一つをまんま使った本屋さん。子供の絵本や趣味の雑誌、参考書や問題集と言ったお勉強のご本。学校で使っている教科書も全部置いてある。


「わぁ~」


 本の城壁に圧倒されていると。


「ネル様が必要なのは多分こう言うのだね」


 迷わず抜き出して来たスジラド。


「随分薄いわね」


「薄いから良いんだよ。分厚いと一度やっただけで覚えた気になったり。拙いと途中で遣らなくなる」


 そう言ったスジラドは、


「問題集は、一度やっただけじゃ意味がないんだ。単に出来る問題と出来ない問題が判っただけ。

 だって出来る問題は最初から出来たし、出来ない問題は出来ないままだろ?」


 と言う。


「そう言われれば、そうよね」


 異議の無いあたしにスジラドは説明する。


「じゃあどうするか? こうするんだ。


 出来ない問題の解き方を見て、読み上げながら写本を作る様に丸写しして、間違えた部分を確定する。

 こうやって行くと、自分の間違えやすい所が追記された、自分の為の教科書になるんだ。

 そうしてから、見ないでもう一度解く。

 同じ問題を何回も何回も繰り返しやる人だけが、出来ない問題を出来るようにすることが出来るんだ。


 言ってる事は簡単だけど。世の中の大半の人は知らないか、知っててもやらない。

 だからこそ、実際に遣る人が、元々の頭よりも賢く成れるんだ」


「なるほど。これが本選びの極意ね。じゃあ、あたし、選んで来るから。

 スジラドあんたはここで待って居て」


 合点したあたしは摩天楼の中を廻り、その基準で色々と選んで行く。

 国語も、スジラドには教えて貰っているけれど、まだ学校では習って居ない社会科や理科も。読書感想文用のご本も、そして気分転換に読む為のコミックも。

 お金は無いけれど、加藤のお母さんから図書券って奴を一杯貰ってることだし。遠慮はしない。


「ふっふ~ん」


 得意げに胸を張ってみる。なぜか目を反らしたスジラドが、


「ふぅ~」


 と大きく息を漏らした。


 スジラドは男であたしは女。スジラドは大人であたしは子供。そしてこの世界は護衛が居なければ危険なほど治安が悪い訳じゃない。

 荷物持ちを任せて図書館に歩いてく。


 お勉強の本とかはそれほど高くはないけれど、専門書の類は目の飛び出る程高かった。

 借りれるものはそこで借りよう。


 図書館に入って直ぐ。

 あ。あれは学校のクラスメイト。

 加藤乃愛(かとう・のあ)って子に乗り移っている様な感じだから、あんまり元の乃愛ちゃんと変わると問題だ。確か、大人しめのお嬢様で通って居た筈。

 あたしはさっと猫を被った。


(まこと)先生。どちらを探せばよいのかしら?」


 アイコンタクトで気付いてくれるかしら?


「で。乃愛さん。何をお探しですか?」


 良かった。デレックと違って空気読んでくれている。


「初期の飛行機とその構造などを、判りやすく記したご本はございませんでしょうか」


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