心の旅路-4
●釣り合う相手
再起動した加藤のお母さんは、
「病気のせいか、うちの乃愛は小さい頃から引っ込み思案な上、入院がちでお勉強も少し遅れ気味でした。それがまさか……」
と泣き出した。
「お母さん大袈裟だよ。今やってるの数の二だよ? やっと二年生のお勉強に追いついただけだから。
ご本に載ってるのに読めない漢字沢山あるし、書くのはもっと無理だもん」
「高杉さんに面倒見て頂いてから。前よりうんと明るくなりましたし、ご飯も残さなくなりました。
それだけでも本当に感謝でしたのに」
辺り憚らずしゃくり上げるように泣いている。
暫くして加藤のお母さんが落ち着いて来た頃スジラドは言った。
「では、宜しかったらですが……」
この際だから出来る所まで進めましょう。と、大規模書店や図書館行の乃愛ちゃんの外出許可を乞う。
「あたし、行きたいの。出来ればご本も選んで来たいの」
その積極的な態度に加藤のお母さんが渋々折れた。そしてあたしに、
「まだ赤ちゃんのような気がしてたけど、乃愛は意外とおませさんね」
と振って来た。
「え?」
思わずお母さんの方を向くと、
「高杉さんが大好きだから頑張ったんでしょ?」
なんてことを言い出すのよ。あたしは思わず。
「そんなんじゃないよ!」
って怒鳴っていた。だけど加藤のお母さんは生暖かい眼差しで、
「はいはい。恋人さんに嫉妬しても、ケーキでご機嫌治るような大好きでも。本物の好きって事に変わりはないわよ」
って笑ってる。
「いいこと乃愛。世の中には、二種類の人間しか居ないのよ。
好きな人が出来て溺れて駄目になっちゃう人と、好きな人が出来たから成長する人。
乃愛は間違いなく後の方ね。
後ろの人はね。真剣に好きになったらその人の隣に立ちたいと思うの。
相応しい人に成りたいと思うの。対等にお付き合い出来るように成りたいと思うの。
これじゃなきゃ。こんなに急にお勉強が出来るようになる訳がないじゃない。
数学……算数の事よ。それだけでなら乃愛ちゃん、高校生に交じってお勉強出来るかも知れないわね。
高杉さん。乃愛とのお付き合いを認めてもいいけれど、乃愛の歳を考えてね。
門限とか、言って良い場所とか。乃愛の年相応を超えちゃ駄目よ」
「お母さん! 何言い出すのよ」
「乃愛。うちの県では十歳まで男湯入っても良い事に為ってるけれど、銭湯に誘って襲ったらだめよ」
今ので多分、スジラドは今のあたしを女の子だって意識しちゃったらしい。
絶句したあたしの目の前で、紅く変化するスジラドの顔。
どこまで本気で、どこまで釘差しか判らないけれど。
兎に角あたし達の外出許可は下りちゃった。





