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世界樹の跡-4

●二の足は踏まない


 音を立てる草木の服。

 緑の服が脱ぎ棄てられた時、露わになった肌の色は全く日焼けしていない白い色。

 ぱっと光を返すその肌に、ネルは一瞬娘が素裸になったような印象を持った。

 それほど肌の色みに近い、からだにぴったりと吸い付く服が下から現れた。


「さ、脱いで下さい」


「あー。びっくりした!」


 ネルは、履物を脱いで裸足になるエルフの娘に安堵する。

 案内されるままに奥へ奥へと聖域を進んで行くと、樹の枝を組んで作られた祠があった。

 中に安置されて居たのは串団子の一玉程の紅く輝く石。


「シンノウ様のお告げです。


――――

 媛の手を赤石(せきせき)に触れさせよ。

 ()し方の()に赴いて取り戻すが良い。


 されど心せよ。彼処(かしこ)より戻る道は険し。

――――


 聞いた途端、


「ここで二の足は踏まないよ」


 ネルは一瞬の躊躇(ためらい)いも無く、安置された紅い石に手を伸ばした。


 ぱっと辺りが真っ白になり、光は全ての影を飲み干した。

 きゅう~るるる。不思議な音に満たされた時間。そしてその光と音が消え去った時、

 意識を失ったネルは、エルフの娘の腕の中でぐったりとしていた。


 目を剥くシアとクリス。


「待ちましょう。風の媛の返って来るまで」


 エルフの娘は、これが預言書の一節に記されていると二人に語った。


●知らない天井


「どこよここ?」


 目を覚ますと、あたしはベッドの上に居た。

 方陣を組んで整列した歩兵の様に、穴がある板の張られた白い天井。

 ひんやりとした白い金属の手摺。白と瓶覗きの細いストライプの衣を着ている。


「のあちゃん! 心配したのよ」


 誰? この人? あたしはネルに決まってるんじゃない。


「あなた、ブランコで柵超え失敗して頭を打って……」


 のあって誰? あたしのこと? あれ? そう言えば……そうだったっけ。

 目の前の人は……。そう、お母さんだ。


 急速に入れ替わって行く夢と現実。

 そうだ。あたしは加藤乃愛(かとう・のあ)八歳。山ノ手小学校の2年3組だ。

 随分入院してる気がするけれど、籍はまだそっちに有る筈。


「ごめんなさい」


 あたしはお母さんに頭を下げた。


 そうだ。出来ねーだろうって上級生の男の子がからかって来て、


「出来るわよ。出来るに決まってるでしょ」


 って売り言葉に買い言葉。

 爪先が青空に染まるくらい漕ぎまくって……。そしてあたしは鳥になった。

 空の蒼さと芝生の緑。それが何度も入れ替わったのを覚えている。


「検査では心配ないってお医者さんは言うけれど、お母さんとっても心配よ。

 病弱で普段もじもじしている乃愛が、なんでまた。あの時に限ってあんなことをしたのかしら?

 いつももっと積極的になさいと言ってる手前、やんちゃしたあなたを誉めて良いのか叱っていいのか?


 今日は静かに寝ていなさい。ほんと今回は、あなたのお陰でお母さん、寿命が十年は縮まっちゃったわ。

 今、アイスを買って来るから、せめてその間だけでも横になってなさい」


 そう言って病室を出て行った。


「くすっ。あなたったら、あんなことも出来るのに、今まで猫を被ってたの?

 それとも気弱な女の子を暴走させるほど、あの子変な事したの」


 隣のベッドの女の子があたしの方を向いて笑った。

 確かに、せめてその間だけでもと念を押された。


「そうね。心配させちゃったんだもん。少しだけど、大人しくしてなくちゃね」


 でもあたし、身体が動きたくてうずうずしてるんだよね。


遅くなり申し訳ございません。

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