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如何にぞ黙して-11

●誓詞


 勝ち戦の後、神殿長はミハラ伯爵とブルトン男爵公子の二人だけに、自ら案内して神殿の中を見せた。

 普段外部の者を立ち入らせぬ場所や、誰も入っていないとは言え女性用のトイレや湯浴みの施設。

 果てはネルの部屋やベッドまで。


「ここから先は、巫女と神官しか入れない聖域か」

「はい。正確に申せば、神託によって神殿が招いた者と、七歳以下の子供だけにございます」


 ミハラ伯爵の問いに凛として答える神殿長。


「本当に居られぬのか」


 ネルのベッドの天幕の内まで身を乗り出して手を付き、がっくりとうなだれるブルトン男爵公子。


「ああ。未だネル殿の匂いが残っていると言うのに」


 ちょっと気持ち悪いと皆が引いた。


 こうして、納得するまで神殿内を見て回った二人の婚約者。


「ああ。ネル殿……」


 すっかり気落ちしたブルトン男爵公子と、


「諦めよ。いない事にはどうしようもない」


 不在を確認して大人しくなったミハラ伯爵。


 二人は得る者も無く帰途に就くことと成ったが。


「それではネル殿に良しなに。わしはネル殿を正妻に迎える用意がある。

 神殿にはこれを納めよう」


 帰り際、ミハラ伯爵は自らの血で(したた)めた誓詞を神殿に奉納した。


――――

 吾ミハラ伯トリィス・エドマンド・ミハラ、(かしこ)みて神々に奏す。


 我が求婚に応じし時は、必ずトリィス・コーネリア・カルディコットを正室とし、

 生涯変わらぬ誠意を以って遇し、もし吾との間に男子が生まれれば、

 必ずミハラの家督を継承させることを約す。


 但し、吾に男児あり。既に成人なれば(わざわい)を除く為、

 彼を正室の養子とし、和子わこ生誕と同じくして吾は隠居す。

 (しこう)して彼を和子の成人までの当主として立て、和子をその継嗣と定む。


 和子成人の後は隠居させ先代として輔弼させるも、次代より後は臣下の礼を取らせしむ。


 よって(くだん)の如し。

 もしミハラがこの誓い違うれば、神々よミハラの子種を断つべし。


 時維(ときこれ)参佰陸拾漆年陸月壱拾弐日


 ミハラ伯エドマンド奉[印紙の上に花押]

――――


 私は神々に誓います。

 求婚に応じてくれた時は必ずネルを正室として、生涯決して裏切らず、

 もし私とネルの間に男子が生まれれば、必ずミハラ伯爵家の家督を相続させることを約束します。


 但し、私には男の子が居ります。既に成人しているので、後の禍をなくすため彼をネルの養子とし、ネルとの間に生まれた男の子誕生と同時に私は隠居致します。

 そして一旦彼に家を継がせ、ネルとの子供を彼の後継ぎに確定します。


 ネルとの子供が成人した後は、彼を隠居させ先代として後見させますが、子供の代からは家臣に降らせます。


 以上。

 もしもミハラ家がこの誓いを違えるのならば、神々よミハラの子孫を絶やして下さい。


 三百六十七年六月十二日


 ミハラ伯エドマンド


次回は第六部エピローグになります。

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