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青葉砦の戦い-08

●凱歌の村


「「「ご領主様万歳!」」」

「「「騎士様千歳!」」」


 天に響かせ地を満たす、盛大な歓呼の声に迎えられる領軍の列。

 村は狂騒に満ち溢れ、村人は男も女も大人も子供も雀躍(じゃくやく)しながら出迎えた。


「それで。神殿の者達は?」


 賊を平らげた後、わしが領主に開かれし門を通って村に入ると。


「これは……盗賊共が気の毒になるな」


 引き連れて来た騎士達からも驚嘆の声が上がった。


 村の防備としては過剰も良い所。殊に馬蹄形の壕と土塁は恐るべき殺敵の仕掛けだ。

 落ちたら這い上がるのに難渋する、見た目では恐ろしさの判らない深さの壕。

 味方を台として、土塁に蟻のように取り付けば、上から大石に見舞われる。こいつは縄で括ってあるから、何度でも引き上げて使え、尽きることが無い。


 何より恐るべきは馬蹄形の入口。掻盾(かいだて)を連ねて塞いだ二つの入口は、元々村を守っていた壕と土塁に取り付く者に横矢を掛ける矢狭間と為っている。

 取り付いて一直線に固まった所に矢を浴びせられては溜まったものでは無い。


「ご領主様。お怪我を……」


 肩に生える半弓の矢を見て、驚く若い村長。


「なぁに。ほんの掠り傷だ」

「もしや、我らの流れ矢が……」


 青くなる若い村長にわしは首を振り、


「それは無い」


 と断じて見せた。


「下手人は相当の手練れと見えて、大袖・板金・鎧の全てを貫いて来た。

 獣を狩るのがせいぜいの農民如きに、出来る術では有り得ぬわ」


「それよりも、誰の指導だ?」

「は?」


 意味を取れずに若い村長がわしを見た。


「お前は春山村の村長の倅であったな」

「はい。三男になります」

「村長の家のならば、累代の村役人。読み書き計算や農学・普請割などは学んでおろう。

 しかし、兵学・築城学は学んでおるまい。防備の普請は誰が差配した?」


 すると若い村長は、


「慰問に来られた神殿の方ですが」


 緊張の欠片も無い素振りで答えて来た。


「そうか……」


 心得の無い者から見れば、こいつの凄さは解るまい。


 村の入口を塞ぐ馬蹄形の入口から、なんとか中に侵入しても、村の土塁の高い足場から長柄の武器を繰り出せば、そこを突破する為にまた屍の山を築くのは必定。馬蹄形土塁の上に並べられた掻盾は二重で、内側に向かってもその矢狭間を備えているのだ。

 気付いた時。わしは四方八方から矢玉を浴びて、万箭を身に受けて討ち死にする情景が浮かんだ。


「村長大儀。村の状況は大事無いな?」

「はい。いいえ。賊めの要求に応じ、村を護る為に飢えぬだけの物を残し、食糧も毛皮も採取した薬草の類も全て吐き出して、村を襲わぬよう願ったのですが……」


 口籠る。


「足りぬと、売れば金になる女子供を引き渡せと言って来たのだな」

「はい。御明察の通りにございます。開拓途上の青葉村にとっては、人こそ最も大事なものでございます。

 ご領主様の御恩に報いる為、一日も早く税を納められるように開拓を進めなければなりませぬ故」


 それは常々、こやつに申し付けておいた事だ。


「粗忽者め。賊の言い分を聞いて言うままに渡したとは……。

 ああ言う手合いは愚かでな。銭があったら残らず使い、一時の愉快の為に、後に己も飢えることも弁えず。

 見境も無く穀物倉の焼き討ちを為すような奴輩(やつばら)ぞ」

「一言もございません」

「まあ良い。目先の損害より(なが)の年貢だ。災いを避ける為にしたことだ。

 若気の至りと今度(こたび)は赦す」

「ありがとうございます」


「して、神殿の方々は?」


 ここでネル達の身柄を抑えれば、事は成る。


「どうした? 神殿の方々は?」

「はい。それが……」


 村長は再び口籠った。


2019-05-14から入院します。

少なくとも来週はお休みさせていただきます。

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