青葉砦の戦い-07
●エドマンド・ミハラここにあり
東の空が群青から霜を置く如く明らむ頃。わしは予定の位置に着いた。
未だ暗い西空。壕の外に燃える投げ松明が、月の光と相まって戦場をくっきりと浮かび上がらせている。
情勢はやや賊が押しているが、強固な壕と土塁に阻まれて、斃れし者が山を築いていた。
何だあれは? 知らぬ間に村が砦となっておる。
出入の門の前に郭が創られ、正面からの突破を防いだ上で村の柵に取り付く賊に横矢を仕掛けておるではないか。
壕に落ちた賊は、這い上がらんとする所を上からの縄で括った大石を見舞われ憤死する。
射ておる矢は矢竹矢か? 流石にこんな近距離ならば鉄の鏃と顕色は無い。
なんと! 農民に撃退されて這う這うの体で尻に帆を掛けておる者が出始めているでは無いか。
まだ食い詰め者達に戦意はある。しかしそれは村からの追撃が無い為の辛うじてに過ぎないとわしは見た。
「神殿騎士ばかりに良い格好をさせるな。号笛を鳴らせ」
――――
そーミードー!
――――
分散和音の音が三つ、角笛が吹き鳴らされると。
――――
ドレドしドっミっソー!
――――
――――
らドしっらっらそー!
――――
続けて応える二つのパンパイプ。続けて角笛が高らかに鳴り響いた。
――――
そっそミー! そっそそミー!
ミドドド! ミドドド! そドミミミーー!
――――
「「「うぉぉぉ~!」」」
三方から一斉に、雄叫び上げて襲い掛かる。
――――
そっそミー! そっそそミー!
ミドドド! ミドドド! そドミミミーー!
――――
吹き鳴らされる角笛の旋律に誘われ。槍先に掛け、馬を当て、馬蹄に踏みにじり、剣がカラスの馳走を作る。
我らを新手と誤認した村からの、飛来する矢も石もなんのその。人も馬も、最大一寸厚のウサギの膠で貼り合わせた木綿刺し子の鎧下の上にチェインメイルを着込み、要所を鋼の堅甲で鎧ってある。
農民共の投石紐や矢竹矢如き木っ端の火よ。強い弓も混じって入るが神殿騎士か?
村からの一射二射を盾で防ぎ、
「見よ! その目でしかと見よ! 我が功しを焼き付けよ!」
盾を掲げて呼ばわれば、直ぐに気付くだろう。これが当地の領主・ミハラ家当主トリィス・エドマンド・ミハラの紋章と。
「盗賊共を皆殺しにせよ!」
「「「うぉぉぉ~!」」」
ピルを振りわしを馬から引きずり降ろそうとする徒歩の者。
「下郎! 身の程を知れ!」
鐙を十字に踏んで、宝剣で兜の上から体重を乗せた一撃を見舞う。
碌な鎧兜で無い者が多いが、こやつは結構金満家。幾重にも魔物の革皮と鉄を漆で貼り合わせた上物の兜を被って居た。
ガッ! 火花と共に鈍い音。火花を散らした兜に阻まれて、わが一撃は切り裂くに能わずか。しかし衝撃は確りと喰らったようで、その場で膝を着いて倒れた。
「気を失ったか。命冥加な奴め」
とは言え。頭を打って気を失えば、十中八九このまま死ぬ。
そんなこんなを繰り返し、赫奕たる朝の光に照り映えるわが鎧。
血の紅・火の緋・泥濘の赭。
次第に輝きを失って行く標の星の如く、村を襲っていた連中の命の光が掻き消えて行く。
そして我らを、援軍来れりと歓呼の声を上げる村から、絶えて矢玉の静まりし頃。
ピューン! 猛々しい矢叫びと共に、わしの右肩に矢が生えた。
見事な腕前だ。矢は矢防ぎの大袖を抜け、鎧・板金二つながらに貫いていた。
「う、裏切者! 神殿騎士の裏切りだぁ~!」
わしの右で戦っていた騎士が、血を吐く様な声で呼ばわった。
ポリープ発見の為、来週14日より入院します。
明日は更新いたしますが、来週の土日はお休みいたします。
その後は判り次第お知らせします。





