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カルディコットの兄弟-01

本日は0時7時21時の3回更新です。

●過剰兵力

 ネル姫の失踪から2日目。早朝からエッカートの館に続々と集まって来る軍勢。

 館の周りには幾つもの陣屋が作られて行く。


「当家御寄騎・タカスギ子爵家御当主・ハルキ・タカスギ様、間もなくご到着!」

 先振れの連絡を受けた使い番がやって来ると入れ替わりに、

「おおぅ!」

 歓声が辺りを包んだ。

「ングウォォォォ!」

 バサバサと大きな音を立てて、広場に舞い降りる竜。その背には眩い白銀の甲冑を着けた騎士が一人。

「フィリップ卿! ご息女が行方不明と聞き、推参仕った! わしにも同じ位の娘が居る故、他人事と思え無くてな。間もなく軽騎兵二百。夕刻には狙撃兵三百、明日には巨弩兵八門が到着する」


 直近の支流の河岸に乗り上げた夥しい船。全長二十メートル。船幅四メートル半。両舷に十五人の漕ぎ手を配する、鎧張りの流線型の船体。かなり大きな船だ。見る人が見たらバイキングの船にそっくりに見えただろう。

 違いはマストが二本で前が毛布の三角帆。後ろが同じく毛布の三角帆と竹のブラインド型四角帆の組み合わせ。

「当家御寄騎・タジマ子爵殿。タジマ水軍十八隻と共にご到着!」

 伝騎が到来を告げる。兵員にして千余の軍勢だ。それが、浮袋と空間アーマーを兼ねるジャケットの上から手早くカーディガンのようなチェインメイルとサーコートを着込みながら上陸して来る。


「おいおい。あの軍勢の旗は『森林』の二字。マキ家もか」

 マキは真名まなで『眞木』と書く。皇帝陛下に仕えた武功により与えられた、有用な五種類の木の多く生えた山々に囲まれた眞木平(まきのたいら)と呼ばれる盆地に由来する。

 故にマキ家は木を五つ連ねた『森林』二字の真名を旗印としているのだ。

 軍勢は山仕事をする杣人(そまびと)衆が中心で、彼らは山野や森林における活動に長け、ゲリラ戦を得意とする。さらに杣人衆から精鋭を(えら)んだ忍者と言う特殊部隊は、超人的な兵士として有名であった。


「父上!」

 隅の方で不安げにしていたロンディニーム子爵公子が駈け寄る。

 当主の身形はかなり(かぶ)いておいる。

 一際目立つその姿は、現代人から見れば良い歳したおっさんが厨二病を患っているようにしか見えない痛い物だ。

「嫁の一大事と聞いてかき集めて来たぞ」

「農兵八備えの二千は多過ぎます。農閑期とは言え、こんなに連れて来てゲンスィノーフの備えは宜しいのですか?」

「我は武神アッバスの化身ぞ。敵うと思うなら、いつでも謀反すれば良い」

 不穏分子を半ば放置して駆けつけて来たらしい。

「それに連れて来た神人(じにん)衆は僅かに十余。殆どは領内にある」


 他の求婚者の家も、バッティン男爵家が二百・タチバナ伯爵家が千五百・ブルトン男爵家が三百・ミハラ伯爵家が千と、競うように軍勢を集めている。


「なあ兄貴。親父正気と思うか?」

「奇遇だなフィン。俺も同じ考えだ」

 どこと戦争するのかと言う物々しい軍勢。

「人探しなら、他家のモリビトを集めなくとも、内々にマキ家に頼むか渡りの権伴(ごんのとも)共に頼めば良いのに」

 庶兄アイザックはぼそりと口にする。

「奴らかぁ。痛し痒しだな」

 頷くフィンの顔が歪む。


 『権伴』とは、先の内乱に皇帝家の元で功名を上げた者達の中で、禄も領地も与えられない代わりに、幾つかの特権を与えられた小身の者とその郎党達の事だ。褒賞として皇帝陛下の御親兵である『(とも)』の立場を員数外として与えた為、こう呼ばれる。

 故に身分は皇帝陛下の直臣扱いの見做しモリビトとその郎党。建前としては諸侯とため口も利ける立場で、公地や無主地の居住勝手や貴族私領の通行権を持っている。それだけに在地領主や荘園の代官からすると扱いに困る存在だ。

 個々は小身とは言え、彼らはクオン中で結びつき、書簡の配達・子守・失せ物探し・狩猟採取の代行から、隊商護衛・魔物退治・傭兵まで、庶民や諸侯の用を請け負うギルトを作り上げている。


「本当に困ったものですね。義父上(ちちうえ)も」

 眉を顰めながら、近づいて来るミハラ伯爵公子。

「先程私も、『何を考えて居るのですか? こんな過剰な戦力を』と、意見しましたが。

 子故の闇でしょうか? 『わしがやれと言ったらやれ』の一点張りでした。

 どうみても義父上は些か度をこして居られますな。

 まるでカルディコットにはネル殿しかお子が居られないような態を為しております。

 まあ私としては。これほど溺愛しているネル殿を娶る意味は大きくなりましたが」


 嫌味とも取れる物言いに、内心むすっとするに違いないアイザックとフィンであるが、

「確かに、度を越しておられるな」

「如何にも」

 と口を合わせた。


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