青葉砦の戦い-05
●月光の説教
盗賊達と戦う内に夜が来た。
月光の煌めきが照らす中。攻防は一進一退を繰り返す。
少しは慣れたのか、村人も指示を待たずに戦えて来始めた。
ネルは押し返した後は、二交代で一度に一ヶ所に付き二人ないし三人の見張りを立てて、他は仮眠を取るように告げ、最大戦力でもある自分は、
「今夜、例の計画を。クリスの作業が終わるか、その前に何かあったら起こして。
敵がいつ雪崩れ込んで来そうになっても撥ね返せる様に、あたし今から寝ちゃうから。
シア、あんたも休みなさい。眠れないなら目だけでも瞑って休ませておきなさい。
ついでに片目に覆いを当てて、暗闇に慣れた目を用意しておくと良いわ」
そう言って必要な時に力を揮えるよう出せるよう早々と寝てしまった。
ルネは今、攻防が続く村の馬出の、クリスが造った矢玉防ぎの天井があるトーチカの中。
豪胆にも柏布団に包まって夢を結ぶ。
「大したお姫様だ」
若い村長が笑顔になり、
「ほんと、盗賊が怖くないのかね」
近くに居た村人達にも伝播して行った。
「ええ。ネル殿は動じられませんね」
シア司祭長は、忠告に倣い片目を眼帯で塞いだうえで目を閉ざした。そして村人を勇気づける為、聖典に記された物語を解き明かし始める。
「昔、三柱の神々が国を拓き、世を統らしあそばされた頃。
御国を侵す黄泉の神が攻めて来ました。
イズヤ大神は、御自ら神工・光羽が鍛えし降魔の利剣を執りて、神兵たる大御軍を率い、戦の先頭に立たれました。
そして、慈愛の神オーカ・ヤティコは、戦場を見降ろす高台にあって諸手を高く差し伸べて原初の神に祈りを捧げ、お味方に祝福を下し給われたのです。
慈愛の神の御手が疲れて下がって行くと、祝福の力が弱まってお味方が押され、手を掲げ直すと勢いを盛り返しました。
そこで御書の君に召されし二人の稚き者が現れて、左右からその手を支えたました。こうして戦いの最後の最後まで、慈愛の神の御手は天を指して高々と掲げられたままになりました。
人が戦いに赴く時。二つの指導者が必要です。
一つはイズヤ大神の如く先頭に立って率いて行く者。今一つは慈愛の神の如く、全体を俯瞰し堂々とそこにある者です。
真に真にあなたに告げます。
今日ネル殿は、お一人にして二柱の神のお役目を体現為されました。
イズヤ大神が黄泉の神を退けた様に、ネル殿は賊を退けます。
従いし大御軍のように、私達は勝つのです。必ず。
恐れてはいけません。既にご領主エドマンド卿に神殿の名で救援を頼む使いを出しております。
真に真にあなたに告げます。標の星の輝く時。暗き夜は開け放たれます。
かの戦で人がその全てを尽くして戦った後に、イズヤ様がお喚びあそばされた百雷の如く。
ここにご領主様の騎士達が到来します。
その時。私達は勝ちの歌を高く上げ、歌声を天に響かせ地に満たすことと相成りましょう。
皆様。こんな時こそ唇に歌を」
そう言って、この箇所に因んだ讃美歌を歌い始めた。
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♪歴史始まる 古よりも なおも遥けき 神代
討たせやひたに しかも和せや 宣らせ給いし 声よ
見よや 全地は 人の子の物 勇み 討てよ 統べよ
見よや 全地は 人の子の物 勇み 討てよ 統べよ♪
♪水をば撒けば 大地に滲みて 混じり比しむ人代
赤土をば執りて 陶器と成し 堅く国をば 建てよ
見よや 全地は 人の子の物 誓い 結えよ 据えよ
見よや 全地は 人の子の物 誓い 結えよ 据えよ♪
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明日も更新です。





