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青葉砦の戦い-01

●乗り掛かった舟


「参ったわね」


 早くもネルは、計画の頓挫を悟ってしまった。

 見た所ならず者か盗賊にしか見えないが、先日の様に村に略奪しに来た末端の雇い兵の可能性も高い。

 もちろん自助救済が原則な上、野獣や魔獣の横行する世界だ。村人とてそう簡単には遣られない。

 村を囲む壕と土塁と木柵を恃みに、襲撃者達と対峙している。


 そして、


「「「うぉ~!」」」


 猛る襲撃者の吶喊。

 雄叫びを上げて壕と土塁を越えようとする襲撃者達に、地境の柵に張り付いた村人が応戦を始めた。

 干し草を扱うフォークや草刈りのサイズ。そして投石で対抗する。


 襲撃は粗末な皮鎧の集団。小汚い髭面に顔の窪みに溜まった汚れ。ピカピカと照る脂ぎった額。風が不快なこの連中の形容しがたい(にお)いをこちらに寄せて来る。

 刃の欠けた、一目で手入れの為って居ないと判る剣を振り回して威嚇する襲撃者達。槍は穂先が錆びて酷い様。鞘に納めると抜けなくなること間違いなし。

 だからと言って侮れない。手入れせずとも蛮用に耐える鍛鉄の剣。槍は受けた傷を必ず膿ませる不潔な物だから。


「助太刀するわ!」


 矢竹矢を番えたネルが射掛けると、敵の一人の頬に矢竹が生えた。

 外した? いや外したのではない。敵を量る為にわざと、命に別状なく傷が癒えれば障りのない箇所を貫いたのだ。


 敵の面体を貫いた矢竹は、ネルの目論み通り奥歯で止まっている。抜いて綺麗な水か、せめて出したばかりのおしっこで洗う。油薬を塗って置けば化膿もせずに済むだろう。

 彼の受けた傷は、精々その程度の代物だ。


「ギャオ~!」


 当たりて怯む卑怯者。


「ふっ」


 大の男が、しかも荒事に為れているならず者が発する辺りに響き渡る情けない悲鳴。

 それを(あざけ)る様に鼻で嗤うネルは、


「痛がりが居るようね」


 容赦のない舌鋒で敵を切り裂いた。


「痛てぇ~よぉ~!」


 悲痛な叫び声に乱れが生じる攻撃者達。恐れず進む剛の者との間に足並みの乱れ。

 一気に敵は御し易くなった。


「ふぅ~」


 一息付くネル。幸いにして襲撃者の練度は低い。武辺の者が混じって居たとしても、それは単なる一個人の範囲に収まって居る。戦相手としては楽な敵だ。

 現に、今ネルが傷付けた者の悲鳴で、見る見る動揺が広がって行くのが見て取れる。

 兵としてはネルはおろか、クリスの元に隷下の一小隊もあれば、忽ち蹴散らせる程度の練度しかない。


 今の一矢で浮足立った襲撃者達は、村人の投石による被害を出しつつ退却をした。


「撃退したのですか?」


 シアが尋ねると、ネルはゆっくりと首を横に振る。


「そんなに簡単に行けば良かったんだけどね。あいつら中々しぶといよ。


 距離を取ってはいるけれど、後続が集まって来たわ」


 ネルが弓の末弭(うらはず)、つまり弓の上端で指し示す先を見ると、普段は列を組んで飛んでいる鳥の群れが、乱れて四方に散る様が見えた。


「あれが何か?」


 きょとんとするシアと対蹠的に、


「ホントにご本通りの伏兵の(しるし)だね」


 クリスが合点して頷いた。


 兵書に曰く。天(みだ)れあらば、地静かならず。地の模様、自ずと天に映りたり。

 神官教育を受けたシアは知らなかったが、弓の貴族としての教育を受けた者なら知って居て当然の事柄だ。


「シア。この前はあたし達を狙った暗殺者相手だったから、味方を放って逃げるのが上策だったけど。

 今回は村の外の敵の軍勢。神殿騎士や護衛と違って、村の人達は戦う人じゃないわ。寧ろあたし達が護る側ね」


 ネルはゆっくりとシアとクリスを見、


「結構大軍よ。覚悟はいいかしら?」


 と二人に尋ねた。


令和最初の投稿になります。

これからもよろしくお願いいたします。

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