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アオバの角笛-09

●牧場の礼拝


 神殿の定めた安息日は、原則丸一日休みを取り、神に感謝し賛美の歌と祈りを捧げる日に当たる。

 つまりモノビトや家畜を休ませ、自由民も無理のない形で休息することが奨励され、自主的な奉仕や人を助ける働きなど善き行いは神の嘉する所だが、何人も自分の他に働く事を強いては行けない日とされている。

 尤も、農繁期などは他日に繰延することも出来るが、他日代わりの日に休み、一年の安息日の数を減らしてはいけないのだ。


 実の所。安息日は礼拝すらも強制ではない。祈りも賛美も感謝さえも、善き働きの一つに過ぎず他者が強いてはいけないのだ。

 慈愛の神オーカ・ヤティコの求める真心と愛と感謝とは、その者個人の自発的なものでなければ涜神(とくしん)行為に当たると、聖典に明記されている。

 だから日頃の仕事で疲れ切ったモノビトは、朝夕に軽く祈りを捧げるだけで後は身体を休ませているし、多くの子供達は、これ幸いと一日を遊びに費やす。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん」


 クリスの手を引くローラははしゃぐ。

 いつも末っ子扱いのクリスは、満更でも無い顔をして一緒に駆けて行く。


 そんな子供達が遊ぶ畑に程近い休耕地兼放牧地では、シアが村人の有志を集めて讃美歌を歌っていた。

 布に書いた歌詞を掲げ、ネルが伴奏する。


――――

♪一粒の麦の種 選り分けた堅間かたまの種

 どこに()くどこに()く 畑の(そば)の小道

  盗人(ぬすっと)小鳥が飛んで来た

  そのまま麦は口の中♪


♪一粒の麦の種 選ばれた八畑やはたの種

 どこに()くどこに()く 川原の石の上か

  嵐が襲うよ 石の(はら)

  根付かず直ぐに枯れる麦♪


♪一粒の麦の種 素晴らしい宝の種

 どこに()くどこに()く (いばら)の茂る(やぶ)

  荊は遮る()を隠し

  伸びきる前に滅ぶ麦♪


♪一粒の麦の種 ありふれた我が家の種

 どこに()くどこに()く 良く耕した土か

  ()を受け()()け 庇護を受け

  百倍実る(しゅ)の恵み♪

――――


 何人かの子供が遊びを止めて、シア達の方を見ている。


 やがて歌が終わりシアが聖典の言葉を説き始めた。


――――

 この歌は、聖典の奥の深い(たと)えを含んだ聖句から採られています。

 歌に出て来る種とは、神様が一人一人に賜れた才能でもあり、導きの為に示された聖句でもあります。


 選り分けた竹籠の中の種も、小道に蒔けば食べられてしまいます。

 八つの畑から選び取った良い種も、河原に蒔けば直ぐに枯れ、

 素晴らしい宝物みたいな良い種でさえも、藪に蒔けば育ちません。

 だけどあなたの持っている見た目は大した事のない種でも、良く耕した土に蒔けば実ります。


 どうかあなたの心を、良く耕して下さい。

 神様はそれをお望みです。

――――


 小さな子供でも飽きぬよう、物凄く短い説教を行い。


「では、次の賛美の歌を」


 シアは布を捲って次の讃美歌の歌詞を見せた。


 祈り、歌い、聖句を説くシアの言葉に耳を傾け、礼拝は進んで行く。

 その傍らで子供達は、泥んこになって遊んでる。長閑な安息日の村の風景がそこにあった。


 そんな中。ローラを含むグループが、かくれんぼ遊びを始めた。林と藪の多い場所で、事故があっては困るので、小さい子供は大きな子供と組になる。

 クリスはローラと組になった。


「お姉ちゃん。ここに隠れよう?」


 ローラが示したのは見晴らしの良い丘の一本の樹。枝が細いけれど、子供だったら登れそう。

 登れば枝葉に隠れられそうだ。


「そうね。ここにしょうね」


 二人は協力して樹を登った。


 鬼を待って居る枝の影。近付いて来る足音が聞える。

 息を潜めて下の様子を伺うと、きょろきょろと辺りを伺う男の人。


「お父さんだ。なんでここに?」


 鬼に聞こえたら捕まるので、息を吐く音だけでクリスと話す。

 暫くすると樹の下に、男の人がやって来た。


「あれ? 誰だろう?」


 小さな村だから皆顔見知りの筈なのに、知らない人だとローラは言った。


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