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誘拐-09

本日は0時7時21時の3回更新です。

童謡(わざうた)

「止めなさい! デレックにそれ以上手出しはさせないわ。さもないと口が裂けても言わないわよ」

 きっと睨むと親分の手がさっと上がる。もう一度手下の手が止まった。


「もう一度聞くぞ。本当の事を言え」

「信じるかどうかはあんた達の勝手よ」

 ゴスっ。あたしのお腹と胸の間が鈍い音を立てた。全然痛く無いにも関わらず苦しくて堪らない。なぜならあたしの身体から息と言う息が吐き出され、吸う事が出来ないからだ。

「俺達は女を責めるほうが本職だ。怪我をさせるような真似をしなくとも、甚振る術には長けているんだぞ。他にも」

 パーン! 耳を掌が襲った。痛い。でも息が出来ないから声も出せない。

「鼓膜を破らず傷めつけるのが、この道三十年の成果だぜ。さあ。お望み通り、もうデレックとやらは痛めつけねぇ。だが、怪我をさせずに女を甚振るなんて俺達にとっちゃ朝飯前よ」


 やっと息が出来た所にまた突きが来る。親分を睨みつけ続けることだけが、あたしの意地だった。


「もう一度聞く。洗い浚い宝剣の事を話して貰おうか。さもなくば、今度はデレックの指を間接ごとに切落す」

 言い迫る親分の問いにあたしは腹を括った。どうせ作り話にきまってる。教えてしまおうと。

「これはあたしだけが聞いてる事だから。今から()うわよ。ちゃんと聞くように。その前に筆と紙を貸して、字を見ないと解る筈もないから」

 この時、なぜかあたしは、右の杭に縛られている男の子から眩しい目で見つめられているのに気が付いた。

 デレックともスジラドとも求婚者の誰とも違う熱い眼差し。


 節を思い出しながら、朗々とあたしは()う。そして文字に書き記す。

――

 御剱みつるぎは、天地人(てんちじん)つちにして、八種(やくさ)の宝が一つなり。

 竜の血と、天降あもりりましけんカガミアの、聖霊(みたま)の声に(はべ)るもの。


 聞け耳のある者は聴け。ゆるがせにせず、なおも聞け。

 地の剱(つちのつるぎ)皆見みひぃなみを、護らん現人神かみ眷属やからにて、侍りし者の証なり。

 地の()ての、氣絶ふ(きたう)(つち)鳳凰おおとりに託されしまししつるぎなり。

 (おおとり)()の変わる度、彼は還ると。


 (ほまれ)(おおとり)(しず)めたり、邪神(やがみ)の契りを(しず)めたり。


 時が満ち、クオンのつちの騒ぐ時。(つるぎ)は立ちて群れを成し、

 (おおとり)は見ゆ あだす者を。

――

 鳳凰と鳳と凰とは全ておおとりと詠むけれど、意味する所は違うのだろうか?

 意味は解らない。あたしはただ諳んじた物だ。


「この意味は?」

「知らないわよ。秘密を子供に全て教えちゃう大人が居ると思う訳?」

 むっと怒鳴ると親分は、

「はははは。そうだな。ガキに全部は教えねぇ。それが道理と言うものだ」

 初めて目まで笑っていた。

「だがな。知ってることは教えて貰うぞ」


●憧れと混乱

「止めなさい! デレックにそれ以上手出しはさせないわ。さもないと口が裂けても言わないわよ」

 僕と変わらない歳なのに、女の子なのに、凄い子だ。互いに庇い合う二人を見て、なんだか二人が眩しく見えた。


 貴族と言っても、僕は兄上の予備に過ぎない。現に父上も兄上の婚約の事で忙しくて、僕を放置してどこかへ行った。

 いくらお家(いえ)の威儀を正す為とは言え、戦に出向くようなあれだけの兵を引き連れて行くなんて、生半可の事じゃない。それだけ兄上が大事なのだ。

 だから僕には碌な家臣を着けていない。だいたい襲撃騒ぎで真っ先に逃げ出す護衛なんてあり得ないよ。

 それだけに、とても僕は羨ましく思う。


 ネルと言う子が節を付けて、神官のように()い始めた。高く伸びる美しい声。

 え? 何? 今の(うた)は……。僕の家に伝わっているのとそっくりじゃないか?


 待てよ。ネル? 思い出した。兄上の婚約者じゃないか!

『なんでここに居るんだ?』

 僕は混乱の中にあった。


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