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アオバの角笛-02

●もてなしの食卓


 オリザ酢と塩の皿を添えた清流の水で泥を吐かせた淡水魚の切り身。


「これ、生だよ!」


 クリスがくいっと身を引いた。

 魚は寄生虫を持つことが多いから、普通は煮たり焼いたり熱を加えて食べるものだ。

 それに、淡水魚は海の魚よりも寄生虫が居る事が多いと聞いている。


「大丈夫ですよ。手間は掛かりますが、ちゃんと生で食べられる処理をしているのです」


 ホストである村長。いや、ここの領主でもあるサイ・マーティー・サイカはにこやかな笑顔。


「一旦オリザ酢と火酒を混ぜた物に塩を加え、一晩漬けこんで味付けと毒抜きをしたものです。

 虫の類は全滅して、生のまま食べて問題無いんですよ」


 と言いながらウインクした。

 いい年をして、茶目っ気丸出しのイタズラ坊主がここに居る。


「う~ん」


 顔を見合わすシア・ネル・クリスと神殿騎士達。


「そうですか。ならぱ頂きましょう」


 シアが言うと、護衛の神殿騎士が一切れを食べる。


「美味い! ……いや失礼。シア司祭長、大丈夫です」


 他のメニューは、同じく淡水魚の香草焼き。白銀色に輝くドームカバーを持ち上げると、レモンを思わせる香りが辺りに立ち込める。

 森の恵みの山椒やクルミ。沢のクレソン。干した山ブドウとベリー類。

 パンは無いけれど、蕎麦のガレットがふんだんに用意されていた。


 スープ皿に注がれるのは、森の恵みを中心に具沢山のシチュー。


「何のお肉ですか?」


 シアが問うと


「マカネジシの肉です」


 癖のある硬い魔物の肉だ。


「きちんと血抜きした鮮度の良い物を、塩で湯掻いて清流に晒し、丁寧に灰汁を取りました。

 その後当地で採掘された泥炭を使い、弱火でコトコトと山羊の乳で煮込んだ物です。

 途中で森の恵みのキノコや山芋・百合根、灰汁抜きしたドングリ等を加えて、塩とホースラディッシュで味を調えました」


 これまたご馳走の名に相応しい贅沢な料理だ。


 メインディシュは、本日潰したばかりの豚のロースト。


「たんと山椒を効かせてあります」


 大きな切り分けナイフで焼いた肉の塊を四等分。その一つを取って


「先ずは自分がお毒見を」


 と言いつつ自分のナイフで一口大を切り取って口に入れる。


「うん。美味しいですぞ、どうぞ」


 当地で手に入る心尽くしのおもてなしにシアとクリス、それに護衛の神殿騎士は舌鼓を打った。

 反面、少し顔色が優れず、蜀の進まないネル。


「お口に合いませんでしたか? それとも御気分が優れませんか?」


 村長でここの領主でもあるマーティー卿は、心配そうに覗き込んだ。


「ありがとう存じます。少し旅の疲れが出たようですわ。マーティー様のお心遣いに甘えさせて頂いても宜しくって?」


 言葉遣い以前に、余りにもゆったりと話すネル。その明らかにいつもと様子が違うネルの様子に、


「ネルお姉ちゃん! 少し休んだ方が良いよ。お熱、大丈夫?」


 急な病を心配するクリス。


「わたくし同様シアさまも、疲れが溜まっていらっしゃると存じますの。今夜は程々に過ごされた方が宜しくって?」


 ネルの問いかけにシアは、


「そうですわね。折角のおもてなしですが、ネル様の介抱もありますので、今夜は早く休ませて頂きますわ」


 と言い、ネルを支えて席を立った。クリスも立ち上がり、


「ネルお姉ちゃん。確りして」


 ハンカチで口元を抑えるネルの背を擦る。


 こうして三人は早々と寝所に移った。


「ネル殿大丈夫ですか?」


 部屋の扉の前で、二人で番をする神殿騎士の片割れが声を掛ける。


「なんとか……。それより今夜は悪いけど携帯口糧だけにして」


 絞り出すような声で話すネルの只ならぬ様子に、了解と黙って頷く不寝番。


「ぐぇーっ、ぐぇーっ」


 部屋に入り指を喉に突っ込んで壷の中に胃の中の物を吐き出すと、ネルは俳優女優が舞台袖で話すような息だけの発声で


「あんた達。すっかり胃の中の物を吐いちゃいなさい」


 と二人を促した。


先の大量ブクマ喪失より、いろいろ迷いが生じています。

いっそ新しい作品書こうかな。


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