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ミワ村の再会-05

●村のモノビト


 一般に、村は住民の生活を賄う生産力しかない。

 いきなり人口が増えても耕作地が無いし、食料も雇用も限られている。そのハードルを越えたとしても、代々綴られて来た村の仕来りに余所者が馴染めるとは限らないのだ。

 ましてそれが一人二人ならまだしも、他の村から大量にともなればその軋轢は社会不穏となる。


 都市は幾分村よりはマシだが、雇用は余程の事がない限り身元保証の有る地縁血縁が優先される。

 魔物を狩れるほどの人並み優れた武芸者や、腕の立つ職人。役人に成れるような計数に優れた者ならいざ知らず。元が学の無い普通の村人では、単純な力仕事に有り付くのが関の山。


 このように故郷を捨てた流民が成り上がるのは難しい。いかに鋭い錐でも、袋に入れて貰わねば袋を貫いて先を現す事は無いからだ。

 運の要素が大き過ぎるが、まだモノビトに売られたほうがチャンスに有り付ける。拙くとも、主人から衣食住を保障されるのだ。


 流民との遭遇で、荒れ果てた村々や一戦あるかと覚悟していたネル達だったが、遣って来た次の村は平穏であった。畑の作柄も並み以上で、平和な日常が綴られている。

 しかし、


「ほらほら。何やってるんだい。そこの草取りが終わるまでメシはお預けだよ」


 腰まで伸びた髪から見て女の子だろうか? 大人や他の子達が木陰で休んでご飯を食べていると言うのに、畑でこき使われている痩せた小さな子供の姿。

 ご飯を食べている子供達はぶかぶかの服を着せられている。成長期の子供の為の服など作れない貧しい村では、ごく当たり前の光景だ。

 けれどもその子は、服とも言い難い襤褸(ぼろ)を纏い、暴力こそ振るわれていないが、言いつけが終わるまでご飯を食べさせて貰えない。


「あの子は……」


 シアが尋ねると、案内の村の男は、


「先日流民から買い取ったモノビトですよ。まだ小さくて物の役にも立ちませんが」

「ちゃんと食べさせていますか?」

「それは勿論。病気にでもなられたら損をしますから」


 あんな小さな子が村人が食事を摂っている時もお腹を空かせて仕事とは、(はた)で見てて痛ましい。けれども別に暴力を振るわれている訳でも無い。


「シア。村で使われるモノビトなんて、お喋り出来る家畜みたいなものよ。例えば鞭で打たれてるんなら止められるけど、今の所決して酷くは扱われてないわ」


 眉を顰めたシアにネルが釘を刺す。

 この国では私有財産は護られている。そしてモノビトは主人の私有財産なのだ。


 心配して立ち止まって様子を見守るシア。丁度そこへ向うの畦道(あぜみち)から、商人が案内されて遣って来た。


「この子かい? 良い髪だね」

「そうでしょう。これだけ長いと良いカツラになります」


 手揉みする村人にお金を渡すと、商人はハサミを取り出した。


()ぁ!」


 暴れる女の子を押さえつける村人。泣き喚く女の子の髪が見る間に刈られ、痛々しい虎刈りの頭に変わる。

 シアは眉をひそめたが、モノビトの扱いとしてはよくある事だ。可哀想とは思ったが、モノビトは主人の持ち物。彼らの感覚としては羊の毛を刈る程度のお話だ。この程度の事にシアには(くちばし)()れる資格は無い。

 道すがら他にも買い取られた子供を見かけた一行だが、どれも似たり寄ったりの扱いだった。


 案内された村長の家では、


「巫女様にはこちらのお部屋をお使い下さい」


 と、奥の上等な部屋に通された。


「結構良い部屋ね」


 ネルの見立てでは、騎士爵の屋敷程度の調度品。窓の雲母も上物。歪みの少ない透明度の高い物が使われている。


 背負った荷物を降ろし、椅子に腰掛けて休んでいると、

 コンコン。


「はーい」

「麦湯をお持ち致しました」


 五、六歳だろうか? 赤ちゃんを背負った女の子が、木のカップとお茶のサーバーを入れた桶を下げて入って来た。

 おんぶ紐で括りつけられた赤ちゃん。そして首に嵌められた首輪からしてこの子はモノビトだろう。

 けれども、ぶかぶかだが清潔な白と水色の服。肩に届かぬ長さだけれど、手入れの行き届いた髪にはくすんだ青いリボンが結ばれ、顔立ちの良さを引き立てている。

 おなじモノビトでもさっきの子とは違って居た。


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