誘拐-06
本日は0時6時18時21時の4回更新です。
●家畜の扱い
サンジさんに教えられた枝道の先には広間があった。
辺りは暗く湿気ている。うんと高い位置にある明り採り、と言うか空気穴から入る光を受けて、岩肌の苔が淡い光を放っている。
広間の中央に、いくつも井桁に組まれた丸太があって、ここを利用して栽培しているのだろう。幾つかの丸太からは見事なキノコが生えていた。
辺りに目を凝らすと、へこむ様に抉り取られた浅い横穴を利用した牢獄がそこにあった。
格子は無い。但し壁に穴が穿たれていて、虜の手首の枷を繋ぐ鎖がそこに通してあった。
虜の数は十一人。あまり身動きの取れず、ずっとこのままならトイレもそこで垂れ流しにするしかないと言う酷い扱いだ。
……何人か下に水溜りが出来てる。うん、見なかったことにしよう。
「あ!」
僕に気付いた子が声を上げた。
「しぃーっ。騒いで人が来たら、僕、見捨てて逃げちゃうからね? 今助けてあげるから静かにね」
口に指を立て、鍵束をじゃらりとならしてみせると、皆声を飲み込んで静まった。
「ゆっくり。そーっとだよ」
全員の枷を外し、僕の後を付いてこさせる。
「あ、鎖は置いてって」
枷の鎖を持って行こうとしていた子達を止めると、
「おいら達、何も持たなくて大丈夫か?」
天秤棒で戦っていた男の子が僕に聞く。
「ジャラジャラ音を立てる方が危ないよ」
そう答えると、
「判った」
と納得して鎖を置いてくれた。
幸運にも誘拐犯達と遭わずに、サンジさんに教えられた出口に到着。ここから右の斜向かいの河の下、昼に差し掛かる高いお日様に照らされて漸く晴れて行く霧の彼方に、豆粒ほどの大きさに奈々島の街が見える。
「助かった!」
「しっ。街に着くまで静かにね」
僕達は誘拐犯に見つからない様、声も音も立てないように粛々と。低い下草と木々の茂る獣道を奈々島の街を目指して歩き出した。
●なんでだよ
気が付くと俺は、大人の服を着せられて座った状態で杭に縛りつけられていた。
周りには隙間のある丸太の壁。俺はと言えば、だぼだぼの袖を杭の後ろに縛られてその上からきつく縄が巻かれており、首にも絞まらぬ程度に縄が巻かれ額も布で杭に固定されている。口の中には布のような物が詰められており、その上から猿轡もされて居た。
首さえ自由に動かしかねる状況で視線だけを動かすと、隣に誰か同じように縛られている。
『この匂いは? ……ネル様は無事か?』
「むぅ~!」
口に詰められた布玉のせいで声にならない。しかし、似たような響きが隣から聞こえた。
ここはどこだろう? 丸太の壁の隙間から見える岩の窪みに、立って頭の上に手を上げる形で子供達が繋がれて居る。裸同然の粗末な身形の子が殆どで、まともな服を来ている子は僅かに過ぎない。
あ……。聞きたくない音と共に、繋がれた子供の下に水溜りが出来た。
「いやぁ~!」
髪からすると女の子だ。
『畜生! 家畜並みかよ』
売り物のモノビトでも、自由にトイレが出来るようにはしておくものだ。あんな扱いは普通しない。
隣の男の子が顔を背け、
「見てないからな」
と言うのが聞える。
それを合図にしたかのように女の子や幼い子達が泣き出すのを、声を掛けてやることも叶わず俺は見ていた。
相変らず身動きが出来ないままに、俺は機会を待っていた。
どれくらい経っただろうか? 丸太の隙間から見える景色に見知った奴が入って来た。
『スジラド! 俺達はここだ!』
だが涎を目一杯吸った布玉は、益々俺達の声を封じ込める。
結局あんにゃろうは岩壁に繋がれて居た子供達を解放すると、急いで逃げて行きやがった。
俺達には全く目もくれずに。