表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/308

消えたスジラド-03

●塩垂るネル

 届いたのは一通の書簡。

 あたし達を匿う神殿の元に、帝都オリゾから正式の使者が携えて来た悲しき報せ。


 封を解き、一読した手が震え声も震える。

「うそ! うそ嘘うそ嘘! スジラドが死んだなんて嘘よ!」

 知らずあたしは憤慨していた。

「コーネリア殿。お気持ちは解りますが……」

 言葉を濁す使者。


「だって、証拠は? そう、証拠が何もないわ!」

 信じられない。いや、信じたくない。

 四歳の時から姉弟のように育って来たスジラドだもの。あいつの事なら何だって知っている。そんなに簡単に死ぬような子じゃない事も。


 え? 地揺れ? 目の前がグラグラ揺れてる。

 あれ? あれ? 唇が、舌が痺れて口の中が苦い。なんで、なんで寒いの? こんなにも。

 なんだか急に御使者様の声が遠くなった。太陽も風もあたしを置き去りにして遠くへ行ってしまった。

 突然(くら)くなった部屋。その揺れの激しさにバランスを崩したあたしの身体が、ふわりと宙に浮いた。


「ネル!」

 あたしを両腕で抱えて受け止めたのは、デレックだった。

 心配そうに覗き込む顔。今一人の、年上の弟の顔を見ながら、あたしの意識はふっと途切れた。


 気が付くと、あたしはベッドの上に寝かされていた。服を着たまま横たわり、毛布が一枚掛かっている。


「お兄様?」

 チャックお兄様が枕元に立っている。

「ネル。チカとタケシが居場所を探れない時点で、この世界からいなくなったのは間違いないんだよ」

 諭す様に告げるお兄様の声は、とても穏やかで同時に少し冷たく感じた。

 チカと言うのはスジラドが契約を結んだ鳥の魔物で、タケシと言うのはスジラドの馬。

 どちらもスジラドと魔力ラインが通じて居たのだとお兄様は言う。


「魔力ラインはどれほど離れていても、絶対に途切れる事のない絆だよ。それが途切れたと言う事は、スジラドが今、この世界には居ないと言う事なんだ」

 不思議と、拒絶はしなかった。相手がチャックお兄様だってこともあるだろうけれど、言葉の選び方が忌み語を避けていたせいなのかも知れない。


「遺留品は無かったの?」

 首を横に振るお兄様。

「一振りの剣が残されていたんだが、残念なことに神殿に送られる際に賊の襲撃を受けたらしくてね。もう、どこにあるのかも判らなくなったんだ」

 普通は口籠る筈の事を、実にあっさりと口にするお兄様。


 スジラドの愛剣・闇薙ぎは、斬り裂き、貫き、打ち据える切っ先諸刃の片刃の剣。

 宇佐(うさ)の地で禍津神(まがつかみ)と戦った時に手に入れた物だと聞いている。まるで神代の時代を思い浮かべるようなお話だった。


 六歳にして人攫いを討伐し、十歳にして禍津神を降し領域開放した英雄。

 それがあたしのスジラドだ。


「スジラド……あんたなんで……」


――――

 吹く風の 人に物言う世なりせば

 いかでかなしき 人を問わまし

――――

 傷口のような唇から、塩垂れるように零れる歌。まぶたが積水を切る如くあふれだそうとしたその時。


「スジラドの馬鹿野郎!」

 あたしはぎくっとして顔を上げた。デレックが、外聞気にせず涙を散らしながら吼えている。


「や、約束を忘れたのかぁ! 一人で、一人で勝手に逝きやがって!」

 拳が破れるのも構わずに神殿の石壁を殴り、取り乱す様は辺りの人が引く程だった。

 すーっとあたしの中で、涙の堤の水位が底を抜いたように下がって行くのが感じられた。


「あ、あははは」

 なんで! 悲しいのに。とっても悲しいのに笑ってしまう。

 少し遅れて、涙が目から溢れて来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもどうぞ。

転生したらタラシ姫~大往生したら幕末のお姫様になりました~
まったりと執筆中

薔薇の復讐 作者:雀ヶ森 惠


ブックマーク・評価点・ご感想・レビューを頂ければ幸いです。
誤字脱字報告その他もお待ちしています。

【外部ランキングで本作品を応援】(一日一回クリック希望)


メッセージと感想(ログインせずに書き込み可能)にて受け付けます。

ヒロインのビジュアル
ヒロインたち
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ