消えたスジラド-02
●予言の結果
「そうですか、スジラドは予言に通りになってしまいましたか」
神殿の聖域で、涙を流しながら報告するケットシーの巫女リアの言葉を、神殿長である沢の巫女は静かに受け止めた。
スジラドが消息を絶ってから、死んだと見做して当たり前の時間が過ぎている。なのに神殿が派遣した捜索隊は、未だ何の手懸りも掴めていないのだ。
「試練を越えれば予言は変えられるかもしれなかった。けれども、試練を受けたことで予言は成された。避けようのない運命だったと言うことなのでしょうね」
神殿長は、そう言って大聖堂を見上げて遠くに視線を向けるのだった。
「でも!」
リアは嗚咽でしゃくり上げながら、
「でも! でも!」
涙が溢れて止まぬ目を開き、リアは言う。
「成就の条件が、千年の樹と斧に柄を貸す裏切りが……」
――――
天に二つの陽は照らず、六合に二人の君は無し、家に二人の主無し。
ああカルディコットよ千年の樹よ心せよ。汝は遂に蠱されん。
ああコーネリアよカルディコットが若枝よ。禍の日にも強くあれ。
血を分かつ、二枝は汝の寇となり。乳分かつ、一枝も遂に仇を為す。
忘るるな。斧に乳の枝が柄を貸して、遂に汝は横たわる。
耳あらば聞け荒が兄よ。
千年の樹が若枝の当に伐られんとするその時、君は黄泉の牢に入る。
繰り返す、死の定めは繰り返す。
汝が蒙われしその地にて、蒙きを包るその宇の中。
――――
「滅びの予言の条件がまだ整っていません!」
そう、リアは言い募る。
確かに血を分けた二枝は、アイザックとフィンの兄弟はネルの寇となった。けれども乳分かつ一枝、つまりデレックは未だネルと共にある。デレックは裏切っていないのだ。
「確かに場所は、お兄ちゃんが幼少期を過ごした場所です。でも! お兄ちゃんが黄泉の牢に入る時は、デレックの裏切りにネルさんが横たわろうとする時のはずです」
滅びの予言の文言に縋るリア。悲し気な瞳で見詰める神殿長は、
「今一度、託宣を願ってみましょう」
託宣は繰り返すほど運命を固定してしまうものとされている。あいまいな言葉で暗示されている運命が、繰り返す事で固まってしまうのだと信じられている。
しかし、再び問うておかずにはいられなかった。
「今棟は橈む。
豫び巽いて、往く攸有るに利ろし。
具あらば世を遯れて悶うることなし。
証せ沢の風 夢中旅行」
呪文を詠唱した神殿長は、深い瞑想の中に落ちて行った。
何者かをその身に降ろし、朗々と道う沢の巫女たる神殿長。
――――
背の君は雲の涯に隠りなむ。
さながら土に繋がるる重き鎖を解き出でて、今現世に君はあらじ。
いざ行かせ。潮もかないぬ、いざ行かせ。
海神の豊旗雲に照り美し、
鴻荒に属えり、その海道を。
――――
その紡ぎ出された託宣は、やはり良く判らない物であった。
因みに、託宣を普段使いの言葉に直せば、
――――
あなたは雲の果てにお隠れになった。
まるで土に繋がれた重たい鎖から解放されて、今、現世に君は居ない。
さあ行きなさい。潮も好都合です、さあ行きなさい。
大海原の上をたなびく雲に美しく映える
遠大な海の道を。
――――
となる。
「うーん。普通に読めば死んだと解釈すべき文言だけれど」
ハッキリと繰り返される死をイメージする文言。だけどその情景は、あまりにも美し過ぎる言葉で飾られている。
黄泉の国か新天地かは知らないけれど、スジラドがどこか遠い所へ行ってしまったことだけは確かのようである。





