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ケットシーの試練-07

●これが試練ぞなもし

 ケットシーの試練場を抜けた先の、険しい台地の頂。

 カオスニャンが来る者を待ち受けていた。


「ねぇ。スジラドは?」

 タケシと共に崖を上って来たリアは尋ねる。

「ケットシーの試練を受けて貰っているにゃ。死の運命に()つためには、魂の位階を進めるぞなもし」

 神殿の巫女でも聞きなれぬ単語が一つ。

「魂の位階?」

 オウム返しにリアは尋ねる。


「そうにゃ。位階を進める為には、死ぬ目に遭って貰うしかないぞなもし。その為には暗部も逆恨み男も天災も、なんでも利用するのにゃー」

「それってどうすれば上がるものなの?」

「修行をしたり、魔物を沢山倒したり。(いくさ)や決闘で強い敵を斃したりした時に上がるものぞなもし」

 と、簡単に言う。


「えーと。位階って修行でも上がるものなの?」

「そうにゃ」

 とカオスニャンは即答した。


「千日の稽古を(たん)と言い、だれでも千日稽古すれば初心の域に達するにゃ」

「三年でやっと初心者?」

「そうにゃ。それで基礎が固まるにゃ。

 そして鍛の上に鍛を重ねること(とう)にして、一つの道が限りなく完成の域に達することを(れん)と言うぞなもし」


「ずっ。随分と時間の掛かるものなのね」

「そうにゃ。ローマは一日にして成らずにゃ。人の命は尽きるとも、全ての道は永遠に不滅にゃ」

 まるで、リアが転生者であることもお見通しの様な物言いのカオスニャン。


「でも、そんな時間があるの?」

「無いから死ぬ目に遭って貰うにゃ。死ななかったら位階も上がるぞなもし。それが邪神の定めた(ことわり)なのにゃ」

 経験を積んで上げる位階。スジラドがこの場にいれば、まるでゲームのキャラクターレベルみたいだと感想を持ったであろう。


 こんな問答を重ねるうちに。ここから姿は見えないけれど、ただならぬ音が聞えて来た。

 閃光の輝きに遅れて、轟く雷鳴に破裂音。捲き起こる砂埃に続いて大木の群れが斃れる音。

 ああこれは、風を斬る音や岩の砕け散る音。

 いや、もう音だけで悪い予感しかしない。それが段々と近づいて来て、大地を揺さぶる衝撃と共に、大規模な地滑りが起こった。


「スジラド!」

 叫ぶリア。

「にゃはははは? これで仕事は終わりにゃ?」

「どう言うことなの!」

 カオスニャンに向かって問い詰めるリア。すると真顔になったカオスニャンはこう言った。

「獅子は我が子を千尋の谷に落とすぞなもし」

「千尋の谷って、あなた……」

 獅子の我が子と言うのはスジラドの事だろう。だとすれば先程のカオスニャンの言葉から察するに、死んでも知らないような試練に遭わせて、強引にスドラドの魂の位階を底上げすると言う事なのだろう。


 リアはタケシに向かい、

「スジラドのところに行って」

 そう頼んで見たが、タケシは戸惑うようにあちこちを向いたけれども、ただ輪に回るだけで駆け出そうとはしない。

「無駄にゃ、スジラドとのリンクは切れてるにゃ」

「嘘よ!」

 そう叫ぶが、

『本当だ。どちらに居るのかさっぱりだ』

 わざわざ、普段はスジラド以外には滅多にしない念話を使って教えてくれるタケシ。

 その当惑した心の動き一つを見ても、タケシがスジラドの居場所を探れなくなっているのは事実のようだ。


「探すの、手伝ってくれる?」

『もちろんさ。(じょう)ちゃんお乗り。なぁに、契約者じゃなくとも(いさぎよ)い若い娘なら大歓迎だよ』

 多分にタケシの好みもあるが、リアはその背を許された。


『で、どっちから行く』

 輪乗りに回って、駈け下りる先の候補を示すタケシ。


 距離的には近道である順路。ケットシーの神殿まで森を抜ける道。

 リアとタケシが上って来た岩と断崖の道。

 そして単なる巡礼者が通る、かなり安全だが物凄く遠回りな祈りの道。


 地滑りで勝手は違ってしまったが、森の中は結界がまだ残っている。いかにタケシが優れていても、リアと共に無事に抜けることは容易ではないであろう。

 かと言って。いかにタケシの脚が速くとも、巡礼の道は桁外れに遠回りだ。

 すると、残るはただ一つ。焦る気持ちを抑えながら、リアは崖下に降りるために移動を開始した。


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