誘拐-05
本日は0時6時18時21時の4回更新です。
●忠告
「えーと……」
マック・アーサーで会った僕に似ているおじさんだ。でも、こんな所で再開するなんて怪しすぎる。
思い出せない振りして探ってみよう。
「誰でしたっけ?」
「あらら」
思い出せない僕にお約束のようにずっこけた。あれ? 危ない人じゃなさそうだ。
「スジラド君ほら。この前奈々島のマック・アーサーで会っただろ?」
えーと。どう答えよう?
「もし、君は過去の私なんだ。と言ったら、どうするかい?」
声を潜めて言うおじさん。
「あ! あの時の……サンジさん」
と水を向けると。
「そうそう。実はさる筋から情報を得てね。君を助けに来たと言う訳だ」
「ここはどこ?」
先ずそれを探らなきゃ。
「昔の隧道跡さ。今は忘れ去られて草木に埋もれてしまった街道の名残だよ。っと、聞かなくても教えてあげよう。奈々島から私の脚で半日ほど川上の山だ」
僕ははっとしておじさん、魔物使いのサンジさんに聞いた。
「ネル様は?」
「生憎、私は知らないね。この近くには誰も居ないよ。脇道の先の牢屋には、子供が十人余り捕らえられて居るようだがね。あの身形からするとスラムの孤児達かな?」
「助けなきゃ」
僕が言うとサンジさんは首を傾げた。
「どうして? あんな所で暮らすよりも、モノビトに売られた方が幸せかも知れないよ。少なくとも食い物には不自由しない。運が悪けりゃ鉱山で下働きだけれど、小さい身体が重宝するから水汲みさせられる罪人モノビトのように使い捨てってことは無い。大方は仕込まれて鉱夫になる子が殆どだよ。
因みに危険と隣り合わせでも鉱夫の稼ぎはいいんだ。どんなに酷い主でも百の稼ぎの内一はモノビトの取り分にしてくれる。だから自分を買い戻すのは難しくないよ。そしたら後はお金を貯めて、身体を壊さない内に鉱山を去ればいい。稼ぎを元に商売の一つでも出来るから、前よりずっと未来が拓けてると思うね」
ある意味それは真実かも知れない。でも、
「サンジさん。あの子達はまだモノビトじゃないよ。決めるのはあの子達だよ」
僕の声が大きくなった。
「じゃあ。どうするかあの子達に聞いてみたらどうかい? これはそこで見つけた物なんだが、どれか合うだろう。もし合わなかったら壊してあげるよ」
そう言うと、リングで連なった鍵束を僕に放り投げた。
「ありがとう」
試すと三本目で牢は開いた。
「あのう……」
「私は手伝わないよ」
きっぱりとサンジさんは拒絶した。
「スジラド君が望んでいるんだから、助け出すなら勝手にやってね」
とても軽い口調だったけれど、他の子には興味ないみたい。
僕は辺りを探って行く。周囲の牢屋には誰も居ない。正確には、生きている人間が見当たらないのだ。
朽ちた額に角がある人間の骸骨・瓦礫・巨鳥の骨格。
肉食性だと思われる大きな嘴の巨鳥の骨は、まんま棍棒になりそうな太くて頑丈な二本脚。ダチョウなんてこいつと比べたら親鶏とヒヨコ、それだけ違う。
枝道に入って調べると、体育館程の空間にぎっしり山と積まれた麻袋の部屋。端を切って調べると、
「右が小麦で左がオリザ。年々分あるんだろう?」
まるでアリの巣の様に、枝道の先に部屋がある。ある枝道の先には井戸があり澄んだ水を湛えているかと思えば、隣の部屋には投石機の弾に出来そうな硬いチーズの塊と塩漬けの肉。そしてこれまた固い豆の入った布袋。
少なくとも、ここは一時の隠れ場所じゃない。人攫い達のアジトだ。
あちこち探ってから元の場所に戻ると、まだサンジさんは居た。
「近くに誰も居ないと言ったはずだよ。スジラド君だけが別にされて居たんだ」
サンジさんは僕の反応にくすくす笑いながら言った。
「やっぱり助けに行くのかい?」
「うん」
そう答えるとサンジさんは、チョークの欠片と畳んである組紐、そして一振りの短剣を鞘ごと僕に手渡した。
「お守りだ。持って行け」
組紐は片方に僕の拳くらいの小さな錨のような鉤があり、五センチ毎に結び玉が拵えてある物で、長さは十メートル程。
短剣は柄の長いデレックが使っているタイプ。短い槍と言っても良く、子供の力でも人や小さな魔物を斃すことが出来る物だ。
「ありがとう」
とお礼を言うとサンジさんは、
「まあ気にするな。あちらの枝道の先に他の子達が捕らえられて居る。そして私が行く道が出口へ続いている。さっさとここを退散することをお勧めはするよ。助け出すかどうかは好きにすれば?」
忠告めいたことを口にして、踵を返した。