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ジャックのふるさと-07

●隠れ里?

 殆ど獣道と化した村への道を外れ、僕の、ジャックの故郷であった村に向けて森の内に歩を進める。

 元より村に行く者は少ない。加えてこれは常ならぬ道ゆえに、僕達ははっきりと確信した。


「厄介なことに成って来たね」

「そうですね」

 普通の声を出さず、楽屋の俳優のように咽喉では無く、吐く息を口の中に響かせて会話する僕達。

 気のせいでは無い。だから僕とチャック様、二人の会話にも緊張が走る。


「こんなところに用事がある人なんていないでしょうからね」

 ケットシーの神殿であればまだ解る。敬虔な巡礼者や、ダルタニャン様が開いた流派の忘れ去られた術を追い求める求道者なども考えられるからだ。

 しかし、ここはそこから離れた森なのだ。人の住まなくなった村へ墓参りにでも来たのならば、寂れ果てたとは言え備えられた道を辿るのが当然の話。

 元より人の通わぬこの辺りで、山賊の類など食い詰める。

 だから、僕は複数の気配が近付く理由を思い付けない。


 あるとすれば、ネル様の扮装をしているチャック様か僕。

 そうだね。ケットシーの巫女のリアに用がある可能性もあったね。


 でもね。どれにしても居場所を知っているなら、こんな森までやって来る必要なんてない。


 樹々の葉が僅かに光の滴を編むこの辺り。鳥の声一つ聞えない沈黙の森。

 少しずつ思い出して来た。昔から不思議と動物の気配の薄い森だったね。


 理由は、今なら少しは判る。

 獣や鳥を徹底的に狩り尽くし、その上で植えられている植物が動物達が食べて生きていくには不適切なものばかりだからだ。


――――

 ジャック。これに触れてはいけないわよ。

 綺麗な紫の色の花を付けているけれど、葉っぱや根に毒を持っているの。

 傷口から入り込めば、熊でも殺しちゃう猛毒なのよ。


 怖い? でもね。この毒は少しだけならば、とっても良く効くお薬の材料になるの。

 他のお薬と混ぜ合わせて使うのよ。


 このブドウのツルみたいなのに成ってる赤い実は、元気な人が食べると死んじゃうの。

 でもね。病気で死にそうな人に食べさせると、少し元気を取り戻して、物を食べたりお薬を飲むことが出来るようになるのよ。


 あ、そこの猿梨の実は食べれるけど、霜が降りる前に採ると甘くないわよ。

 今の季節なら、口を開いたあけびの実ね。ほら、ここの粒々のある所。クリームみたいでしょ?

 他は火を通して野菜として食べれるの。


 ああ駄目。それはあけびと間違えちゃうけれど、下剤シロップの元よ。食べて暫くしたらお腹が雷、お尻はラッパに成っちゃうわ。

――――

 懐かしい人の顔と声を思い出す。


 僕がジャックだった頃に、決して口にしてはいけないと言われた物や、触れてはいけないと言われたものの大半が毒草や薬の調合に用いるような特殊なものばかりだった。


 マコトの知識を得た上で考えるなら、ここは森として絶対におかしい。

 少なくとも子供に直接害をなす存在が徹底的に排除された上で、危険なものが多過ぎだもの。

 おまけにさ。それらは徹底的に管理されていたみたいなんだ。


 ここからまた変わった。

 植生が森の特定区域ごとに変わっているのはなぜだろう?

 植生を理解した上で土壌に何らかの細工をしたのか、栄養を奪い合う形で生えないように工夫しているのかな?

 ここは、隠された薬草畑なんだろうか?


「スジラド」

 袖を引いたのは、息を口の中で響かせる声。

 ネル様の姿のままのチャック様だ。

「一先ずは様子見も兼ねて……私が出るわね」

 ネル様の声色を真似てそう告げる。


「試練の時は近いぞな、もし」

 樹上からケットシーのカオスニャンの声が響く。


「何、別に敵だったら倒してしまっても構わんのだろう?」

 ラノベで良く出て来るセリフ回しと言うけれど。

「チャ……ネル様。それは死亡フラグです」

 僕達は油断なく身構えつつ、先へと進んだ。


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