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ジャックのふるさと-04

●ケットシーの神殿

 村を出て、真ん中にオオパコの中央分離帯のある土の道を歩いて行く。

 すっかり寂れてしまったが、元は砕きレンガの道だった名残が仔鹿の白い(まだら)の点々の様に道に埋まるレンガの欠片だ。

 道の両脇は子供の背丈ほどのイネ科の植物が生い茂っていた。


 風に乗って響く口笛の音が、

――――

 そっそそ そっそそ そそみそ らーらそー

 どっどど どっどど みみみど れーーそー


 そっそそ そっそそ そそみそ らーらそー

 どっどど どっどど みみーれ どーーーー

――――

 と響いた。


「ミカちゃん!」

 僕は思わず前世の名前を呼んだ。


「お帰りなさい。お兄ちゃん」

 青草を掻き分けながら、猫耳帽子で現れたのはもちろんリア。


『遅かったな』

 そしてタケシもリアと一緒にこっちに来ていた。

『ネル様達は? 傍に居なくて危なくない?』

 僕が念話で尋ねると、

『問題無い。代わりにチカが向かっている』

『え?』

 首を傾げると、

『俺達を頼らないのは良い事だが、たまには呼べよ』

 馬の顔に表情筋は無いけれど。念話だけに拗ねているのが良く判る。

 あ、ソッポ向いた。そしてタケシと入れ替わる様にリアが口を開く。

「この先が神殿だよ。昔は村へ行く道の手前に神殿があったけれど。村が移った今となっては、訪れる人もほとんど居なくなっちゃった」

 神殿はこの向こうにある。


「こっちこっち」

 藪を潜ると見えて来る、風変わりな神殿。人の背丈ほどの低い谷積みの石垣の上に、漆喰を塗られた建物がある。

 鐘楼の突き出たなだらかな(いらか)の並ぶ屋根の上で、猫達が身体を丸めて日向ぼっこしていた。


 リアちゃんは、今は誰も住む者が居なくなった神殿の中に僕を案内する。

「埃が積もってて掃除とか大変だったんだよ」

 鐘楼の雲母の天窓から射し込む光がすーっと降りて来て、堂の金箔を貼った神像を照らし四方に光を振りまいている。

 神像は、三銃士に出て来るフランスの銃士隊のような服と帽子の全身毛皮で覆われた猫型の獣人。

 それが何の冗談か、腰まで樽に入って居る。


「ちっちゃい頃も説明したけれど。邪神様に仕えた八大眷属の一人、ケットシーのダルタニャン様の御姿を(かたど)ったものだと言われてるよ」

 思わず突っ込みそうになったけれど、

「う~ん。覚えてないや」

 僕はそれを飲み込んだ。

「だよねー。お兄ちゃんがこんなにちっちゃい頃だったもん」

 掌で腰の辺りの空間を、撫でるの様に回転させるリア。


 その時だった。

「にゃーっはっは!」

「誰?」

 高笑いに上に目を向けると、

「とってんぱーの、にゃん、ぱらりっ」

 天井から空中で三回転して降り立ったのは、神像そっくりの衣装を着け長靴を履いた猫。

 いや、ケットシーだ。

 過去にも見たことにないケットシーを前に目を丸くするリアと僕。だけど、

「誰と言われても、カオスニャンぞな、もし」

 突っ込みどころ満載の名乗りを上げたケットシーに。思わず僕は、

菜飯(なめし)は田楽の時に食べるものじゃ?」

 と突っ込んだ。


「なめしとなもしは違うぞな、もし」

 あ、解ってる。

 思わずカオスニャンとハイタッチしてしまった。


 我に返り、くすくすと笑うリア。

「あれ?」

「お主。それ反則ぞな、もし」

 いつの間にか、リアの手の中にはもふられている喋る猫の姿。

 着ていた服はいつの間にか消えていた。


「言い伝え通りだね。こう言う所まで」

 カオスニャンにゴロゴロ咽喉を鳴らせながら、リアは訊ねる。

(つかさ)様。今日は何をお告げにお出ましですか?」

 一瞬前の少女らしい笑みから、一転厳しい真顔に変ずる。

 それに合わせるかのようにカオスニャンも、

「試練は時間と場所が決まっているにゃ」

 とシリアスに答えた。


「ジャックは暫くぶりにクオンに生まれたシャッコウぞな、もし。

 今はシャッコウの力の殆どを封じられているにゃ。その枷を砕く為、近いうちに黄泉の(ひとや)の試練が待って居るのにゃ」

「黄泉の牢?」

 思わず。その単語にオウム返しする僕。

 だって、いつかの神託に有ったんだもの。


「マコトにとって、甘くて苦い試練なのにゃ。超えれば一皮剥けて強くなるにゃ。

 でもそれは、必ずしも幸せに繋がるとは限らないぞな、もし」

「司様それ、どういう事?」

 聞き返すリア。

「ジャックは、ジャックであってジャックでなくなることもあり得るにゃ。

 もしかしたら、力と引き換えに望まぬ運命を引き寄せるかもにゃ。ジャックが良くてもリアには苦い話かもにゃ。

 もし、ジャックがジャックで無くなったら。猫巫女リア、お主はどうするぞな、もし」


 ユーモラスな語尾の「にゃ」や「ぞな、もし」とは裏腹に。カオスニャンが告げる未来は、とっても深刻そうだった。


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