表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
211/308

ジャックのふるさと-02

●新しい村

 関を越えた僕は、ハガネモリビト達の隊商と共に西へ西へと進んで行く。

 今もチャック様はネル様に変装したままだ。


「どうしたんですかねー? あれからぷっつりと、襲撃して来なくなったんですよねー」

 隊商団長のスズネさんが口にした。

「まあ。これではね」

 弦の損耗も構わずにクロスボゥやバリスタに装填された矢。四方に放った物見。不寝番の為に移動する馬車で眠っている人達。それぞれが携えた毒消しや、常に絶やさぬ火縄の火。

 魔物盗賊何でも来い! そんな臨戦態勢で移動する隊商。


「なかなか、ラノベのようには行きませんねー。ラノベのお話だったら、今のフラグで襲撃と相場は決まっているのですねー。追手どころか盗賊も見えませんよー」

 いや、この警戒で突っ込んで来る阿呆は居ないと思う。


「で、スジラド君。あなたはどの子が好みなんですかー?」

「ぐふっ」

 いきなり振って来たスズネさん。

「ど、どの子って……」

「あのネルって()と、ウサのお嬢ちゃんと、領地の主計(しゅけい)してくれてるお姉さん。

 共に戦ったモリって子に、そうそう。なんでも神殿にもいいヒト居るって聞いたんですよねー」

 どこで仕入れたんだろう? まるで女子と仲の良い男の子を揶揄う小学生の様に聞いて来た。

「あ、いや。ネル様は主人だし、クリスちゃんは可愛い妹だし、ナオミさんはアイザック様からのお目付け役だし……。

 モリさんは行き掛かりで一緒に戦っただけの仲だし、神殿の子は……」

 僕はマコトの幼馴染のノブちゃんの生まれ変わりだった神殿長や、ミカちゃんの生まれ変わりのリアを思い浮かべた。

 なんだか急に胸に痛みを感じた。どこも悪くない心臓の中に、三角形の固い物が突然できて、くるんくるんと周りながら心臓の中を掻き回しているような思い。

 マコトの記憶が、懐かしい記憶が、昔の幸せが僕を泣かす。


「わ、わわわ、悪かったのだよねー」

 気が付くと、僕はスズネさんに謝られていた。


 でもこの人達。警戒は厳重だけれども、張り詰めた響かない糸にはなってはいない。

 こんな風に時折冗談が出たり、輪番で気を抜く為に警戒の内と外を入れ替えて進んでいる。こう言う隊商にちょっかいを掛けるのは、僕が追手でも遠慮したいものだ。


「そんなんで大丈夫?」

「建前としては関わって居ない形を取ったほうがいいですからね」

 チャック様は、僕の廻国修行そのままの食料調達に苦笑い。


「あった」

 藪に分け入り、食べれる野草を摘み。

 シュシュン! 釘撃ちで仕留めたウサギや山鳥を捌いて、腰の竹筒の塩を振り掛けて焼いて食う。

 生水は鉄のコップに汲んで湯を沸かし、酢を垂らして銀板を入れた水筒に入れる。


「大分調整には慣れて来たかな」

 今では適度な力で流している。しかし最初の頃は雷の力の制御が甘く、IHヒーターが利き過ぎたり電磁波加熱で水蒸気爆発を起こしたりもした。


「あと少しか」

 マイルストーンを確認し手で汗を拭う。

 ライディンの育った故郷は、すぐそこまで迫っていた。


 並木道から少し外側にある溝の、そのさらに外側の風景がいつの間にか、広野や森、丘や荒野に代わって畑や沼畑に変わる。

 地平線まで続く農地。縦横一対二の比率の緑の格子が農地を区切り、茂った麦の葉をナイフの様に切り裂いて抜ける風。

 穀物貯蔵の物なのか? 時折見えるサイロの様なレンガ造りの塔と、西部の開拓時代を思わせるような丸木小屋。

 街道は、村の農地の真ん中を貫くように走っていた。


 やがて右手に見えて来る掘と掻き上げ土塁に囲まれた集落。

「予定通り。寄って小商いをしますねー」

 団長のスズネさんが集落を指差した。


 村の手前で、ネル様の扮装を続けるチャック様が、

「この村が君が言っていた村だよ」

 と耳打ちした。

「え? 聞いた話とも違いますし。手前に神殿があるって聞いてるんですが」

 するとチャック様は、

「ここが新しい村になる。神殿は、ここから北に土の道を進んだ所にある。元々の村はその先だね」

 と言い、声を潜めてこう言った。

「公式には、酷い流行り病で全滅したことに成っている。その時、領主一家も亡くなって、死に絶えた村は病を滅ぼす為に焼かれたと聞いている」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもどうぞ。

転生したらタラシ姫~大往生したら幕末のお姫様になりました~
まったりと執筆中

薔薇の復讐 作者:雀ヶ森 惠


ブックマーク・評価点・ご感想・レビューを頂ければ幸いです。
誤字脱字報告その他もお待ちしています。

【外部ランキングで本作品を応援】(一日一回クリック希望)


メッセージと感想(ログインせずに書き込み可能)にて受け付けます。

ヒロインのビジュアル
ヒロインたち
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ