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ジャックのふるさと-01

●故郷への道

 生まれ故郷へ続く道。それは帝都オリゾから、北の領地とは反対方向に歩を進め、砕きレンガの街道を下る。

 整備された並木道。あれは栗、あれはクルミ、あれは山桃、あれはイチジク。食べられる実の生る樹を選んで植えている。

 だいたい四キロ置きにある休憩施設の四阿(あずまや)と、掘りと掻き上げ土塁の宿営地。

 そこに備わる井戸に石の竈。山ブドウの棚やウドの垣根や二十日粟の草地。

 充分ではないが、金も食べ物も無くした旅人の為の計らいなのだとか。故に困窮しないものが貪ってはいけない事に為っている。

 これら街道の整備は、近年皇族の提案で始まったものだと言う。


 野外だけれど、野獣の心配のない柵の中。マントを布団の草枕。一人旅でも比較的楽な道行となる。


 オリゾから西へ、徒歩で三日の位置に宿場町があり、出て直ぐに砦を隣接した関所があった。

 旅人が中の広間で順番待ち。荷を積んだハガネモリビト達の一行が、軽い審査を受けていた。

 運ぶ荷の殆どが刀筆の貴族の荘園からの税であるため、本来は目録を検めるだけの簡単な審査だ。


「すまんが、いつもより念入りに改めたい」

「どうかなさいましたか?」

「実はな……」


 最近、非合法な運び屋が出没しており、積み荷を偽装して魔獣の仔や人間の女子供を運び入れたり、危ない薬を許可なく持ち込んだりしているのだそうだ。


 ハルバードを持った番兵が言った。

「例えば干した魚の腹に薬の包みを隠したり、例えば子供を箱の底に押し込めて藁を敷き、上にジャガイモなどを覆って隠したり。

 先日なんぞは。手足を折り畳んで縛った女にマロウの毛皮を被せて檻に入れ、関を越えようとしたのもあった」

 そして刺股を持った者が苦虫を噛み潰した顔で付け加える。

「薬はさじ加減の難しいもので、乱用すれば国を傾ける物ばかり。

 女子供は正規のモノビトと違って元々存在し無い扱いだ。まず真っ当な扱いはされんだろう。

 魔獣の仔に至っては、過去に災害級の親を呼び寄せた記録もあるのだ」


 説明する関守りのピリピリ感が尋常じゃない。


「仕方ない。おい。荷を全て開いてお見せしろ」

 ハガネモリビトの長は仲間に命じた。

 貴族の荘園から帝都オリゾへ運ぶ荷であると、内容物を書き記した木札を下げている。

 だから権柄ずくで通る事も可能ではある。しかし敢えて彼らは荷を解いた。


 人の頭ほどの布の小袋・籾殻に埋もれた土の球・オリザの俵。金網の篭の中には体長七十センチほどの大ウサギ達。興奮しているのか皆、盛んに首を動かしている。後は特産物の干物と上質な紙の束。

 内容は木札に書かれた通りだ。


 土の球は粘土にひまし油を加えて練った油粘土。それを崩して中身を検めると、

「切子か。見事な物だな」

 壊れぬよう泥で覆って運ぶのだと言う。

「こちらは特産物の瓶詰です」

 流石にこちらを開封は出来ない。そこで、

「御免!」

 犬を引いた係の者が、やって来て匂いを嗅がせる。同じ方法で小袋と俵そして大ウサギを検めた。


 さらに大ウサギの一匹毎に、

「お前は人間か? 人間だったら首を三度振って止めよ」

 などと呼び掛けて確認して行く念の入れよう。


 荘園から送られる貴族への貢ぎ物でさえこのように検められるのだ。待たされる一般の旅人達も大人しい。


 そんなこんなで大分待たされたが、僕の番になると早かった。

「名前は?」

「ジャック」

「身元を証明するものはあるか?」

「これでいいですか?」

 お守り袋から神殿で渡された牙笛を取り出して息吹を籠める。

 ポゥー! ライター程の火が噴き出すと共に、G音が鳴り響いた。


権伴(ごんのとも)であられたか。お若いのに見掛けに拠らぬとはこの事だ」

 途端に扱いが変わり、

「これも役目故、御免!」

 軽く荷物を調べると直ぐに向うへ通された。


 ここより先は刀筆の貴族の荘園が多い西国。長い歴史のある地方だ。

 この道の先に僕の、ライディンの育った故郷がある。


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