表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
207/308

ネル先生-01

●算術授業

 神殿にある学舎。南に面した雲母板から零れる陽射しの明るい教室で、ネルは教鞭を執って居た。

 横にお年を召した女の先生が二人も居るとは言え、学び始めの幼い者を相手の授業だ。


「あたしに続けて」

 薄板に書かれた1~9の数字。それを手早く入れ替えながら、

「1・3・8・2」

 ネルは読み上げる。

「1・3・8・2」

 順番を入れ替えて3度やり、

「今度は1つ大きな数を言います。4・9・2・7」

 見せる数字は3・8・1・6。戸惑うが直ぐに慣れる。

 2つ大きな数や、1つ小さな数もやらせ、授業本番。

 授業をするのはベテランの先生だ。


「ご本を右の手前に置き、二つ目のページを開きなさい。おはじきの箱を机の右上に置きなさい。終わったら手をお膝の上に置きなさい」


「ここよ」

 手を膝に置いて居ない子が何人かいたのを直してネルは、壁に掛けられた布に書かれた教科書をめくる。

「同じ絵がありますね」

 はーいと返る甲高い声。


 お池のある野外。お花が咲いていて、木の枝にはブランコがある。

 輪回し、水切り、木登り、花摘み。擬人化した動物達が遊んでいる絵だ。

 絵の外には、動物の顔が

――――

 牛 猿猿 犬犬犬 狐狐狐狐 猫猫猫猫猫

 ● ●● ●●● ●●●● ●●●●●

――――

 こんな感じで並んでおり、その下に、1~5の数字が書かれている。


 優しい声でベテラン先生が授業を進める。

「沢山の動物さんが遊んでいますね。あ、参内服(さんだいふく)を着けた牛さんが立っています。見つけた人は指で押さえましょう。お隣さんは見つけたかな?」


 これを皮切りに、狐・蝶々・おたまじゃくし・木剣・手まりと押さえさせる物を変えて行く。

 ご本の絵を指で押さえ、隣を確認する女の子達。お勉強なんて無理なんて言っていた子も楽しそう。


「牛さんの上におはじきを1つ置きなさい。お隣さんと見比べなさい」


「おはじきを箱に戻しなさい」


「今度は手まりの上に置きなさい」


 ベテラン先生は作業の指示を出して行く。二個の物三個の物、と五個までの物を同様に。


 その様子を見て学ぶネルは横の先生から耳打ちされた。

「ここで大事な事は、毎回おはじきを指定席に戻す事よ。

 子供達を過大評価してはいけません。こうしないと間違いなく混乱してしまうわよ。一々ご破算(わさん)にしてこそ、指示通りにしている事が確認できるの。

 それにね。毎回出し入れする事にはもっと大きな意味があるの。使用する数をその都度、実感させることが大事なのよ」

 神妙に耳を傾け頷くネル。


 さて、次の段階だ。教鞭を渡されたネルが授業を進める。


「今、蝶々の上に置いてあるおはじきを。カエルさんの上に持って行きなさい」

「はい」「出来ました」「ぴったりです」

 数は同じ3、ピッタリと合う。


「はい。では他に、3つある物を見つけてごらん。そうね。タンポポの上に置いてみましょう」

 おはじきを使った同数の確認だ。蝶々の3もカエルの3も、タンポポの3も同じ3。さらに他の数についても遣って行く。


「ご本の下の方。絵の外を見ます。牛が1。(みんな)も指で押さえなさい。はい、牛が1」

「「牛が1」」

 指で抑えながら声に出して真似させる。


「下に進みます。丸が1。はい、丸が1」

「「丸が1」」

「数字の1。はい、数字の1」

「「数字の1」」

「お猿が2。はい、お猿が2」

「「お猿が2」」

「丸が2。はい、丸が2」

「「丸が2」」

 途中でお隣り確認を入れながら、順に数字の5まで遣って行く。そして、


「今度は先生が言った所を押さえます」

「「はーい!」」

 遊戯感覚になっている子供達はノリが良い。


「丸が4」

「「丸が4」」

「数字の3。狐が4」


 段々と早くして行く。最後は数字の1~5を何回も言わせた。

 そして、満を持して発言へ持って行く。


(みんな)凄いなぁ。流石将来のお役人や巫女様や貴族の奥方様です」

 誉めてにんまりとさせた後。天秤の両方に乗っかった蝶々犬の絵を見せる。どちらも3匹で蝶々と犬の上に同じ数の丸。そして数字の3が書かれている。

「この絵。何のことか解るかな?」

「はい」

「アナさん」

 ネルは五本の指を揃えて指名した。

「3と3」

「早い子は賢い。はい、カチュアさん」

 今度も指名は五本指。

「犬も蝶々も丸も、全部3」

「すごいなぁ。(みんな)賢いね」

 にんまりとする子供達。


 この後1~5の数字の書き方を練習し、授業は終わった。


 職員室。

 子供達の前から離れて、精神的にはクタクタになったネルにベテランの先生達が言った。

「ネルさん。週の初めには、社会科と理科の授業を受け持って貰いますからね」


 社会科とは社会生活の為の常識や教養で、礼儀作法も内包している。

 理科は文字通り物事の(ことわり)を学ぶ教科。


 明日からネルが担当する単元は社会科の『帝都の産業』と理科の魔法の(ことわり)であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもどうぞ。

転生したらタラシ姫~大往生したら幕末のお姫様になりました~
まったりと執筆中

薔薇の復讐 作者:雀ヶ森 惠


ブックマーク・評価点・ご感想・レビューを頂ければ幸いです。
誤字脱字報告その他もお待ちしています。

【外部ランキングで本作品を応援】(一日一回クリック希望)


メッセージと感想(ログインせずに書き込み可能)にて受け付けます。

ヒロインのビジュアル
ヒロインたち
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ