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十五而立-03

●共闘

 一騎打ちに応じたスジラドが柄に手を掛けた。

 カチャ。鍔鳴(つばな)りの音。

「スジラド破れたり! そのような手入れ行き届かぬ剣、(けい)の腕の程も知れよう」

「そうかな?」

 ジェイバートが鳴滝(なるたき)の音凄まじく、空気を裂きて寄せ来れば。

 抜く手も鮮やかに払いのける。その時抜けとんだ鍔がジェイバートの顔面を襲った。


「卑怯者!」

 とジェイバートは叫ぶが、鍔が緩いのを知って居て取った不覚だ。

 いきり立って激しくスジラドに攻め掛かるも、逆上(のぼ)せた頭では単調なパターンになる。


 鳴り続ける半鐘。燃え盛る焔に飛び散る火の粉。

 その喧騒を背景に、鉄火(てっか)は散りて剣戟が鳴り響く。


 スジラドの手にはサーベル造りの打刀(うちがたな)。ジェイバートにはロングソード。

 騎馬の高い足場から打ち下ろすロングソードは、重く質の良い鉄を使っていると言っても所詮重量で叩き切る為の鋳造剣。対するスジラドは、名工が打った鍛造の業物だ。砥ぎも回転砥石でエッジを立てただけのロングソードと|実践向けの白砥ぎの刀の蛤刃はまぐりば。この違いは大きい。

 だから数合切り結ぶも、欠けるのはロングソード。スジラドの刀の刃は、(ごう)も損なわれては無かった。

 赤い炎に照らされて、二人の得物が(あか)い輝きを放っている。

 双方納得した一騎打ちだ。モリも駆け付けたタジマの衆も、ジェイバート隷下の追手達も、武人(モリビト)の倣いと手を出さず固唾を飲んで見守っていた。


「何なんだよ! (けい)は!」

 喚き散らすジェイバート。馬上から鐙を踏んでの、高い足場を利用した振り下ろしは単調になりやすい。上から来る攻撃で、しかも斬り降ろししか無いからだ。

 だから徒歩立ちのスジラドは、刃を潜ったり右に左に斬撃を外す。受ける時も払ったり受け流したりが中心だ。

 ジェイバートは馬上の有利を活かせないのに、スジラドはきっちりと徒歩立ちの利を活かして、ジェイバートに馬上の不利を強いている。


 スジラドとジェイバート。二人の戦いは互角だった。双方の想像以上の腕前に、互いが決め手に欠ける戦いが続く。今では切り結ぶことを止めて、互いに間合いを測りながら動きを止めた。

 互いの今の姿を脳裡に焼き付け、起こりの兆しを読み合う二人。あたかもテニスの名選手同士が、自他とボール以外の事を切落してラリーを続ける様に、二人の五感から相手以外のものが消えた。

 無論こんなこと、一騎打ちだから出来る事だ。


 晴眼(せいがん)目掛けて突き出して、小刻みに震えるスジラドの切っ先。振り被り、ゆっくりと円を描くジェイバートの剣。

 次の一手で勝負は決する。そう誰しもが思った時。


 ふっ。突然スジラドの背後から黒い影が飛び出した。

 ゴトッ! 鈍い音を立てて地面に倒れ伏す男の身体には、深々と飛来した戦斧の刃が食い込んでいた。


「卑怯者!」

 今叫んだのはモリ。

「そうだ。そうだ。一騎打ちを穢す卑怯者め」

 タジマの衆が口々に叫ぶ。


「待て! それは暗部が勝手にしたこと。拙者は微塵も聞いておらぬ」

 慌てて否定するジェイバートが、

「それより。なんで(けい)がスジラドと共にいる。この裏切り者め!」

 と切り返すが、

「焼き働きを仕掛けねば、まともに戦えぬ卑怯者が何を言う。裏切り者はタジマの街に火を放ったあんたの方だ!」

 とモリは罵る。


 やれ卑怯者、裏切り者と(そし)り合う二人。スジラドとジェイバートの剣による一騎打ちは、いつしかモリとジェイバートの大義名分を(あげつら)う一騎打ちに変わって居た。


御舎兄(ごしゃけい)様に逆らって、モノビト風情に与力するとは不埒千万(ふらちせんばん)

 とジェイバートが言えば、

「スジラド殿は無き(はく)が取り立てた騎士爵家御当主。モノビト風情とは些か伯に無礼であろう」

 と切り返す。


 そこでジェイバートが、

「全てお(いえ)が与えた物だ。召し上げるに何の不都合がある」

 と剥奪の正当性を(さえず)るが、

新宇佐(にいうさ)村はカルディコットの直轄地。誰を代官職に任じようと罷免しようと我らの預かり知らぬ事。

 されどスジラド殿の身分は、ロンディニームとタカスギとタジマの当主が裏書きし、神殿と畏き筋も認めしもの。軽々に剥奪など出来るもので無いわ!」

 ふんと鼻で笑うモリは連署三家当主の沽券(こけん)を持ち出し、さらに神殿や朝廷まで引き合いに出して逆捩(さかね)じを喰らわす。


 ジェイバートからすると、プロレスで言うなら4の字固めで攻め立てた所を引っ繰り返されたようなもの。切羽詰まって、

「卿は、モノビト上がりのこの若造を、一廉の将として遇すべきとでも言うのか!」

 と口走る。


「吠えたな。ジェイバート」

 にやりと笑ったモリは、待ってましたとばかり止めを刺す。


「するとあんたは、将でも無いモノビト風情に散々に打ち負かされた。と、こう言い張るのだな?

 武名(かんば)しきアイザック様が、あんた如きを将に据えねばならぬとは。

 いやはや、カルディコットに人は居ないのか?

 俺ならスジラド殿を厚遇を以て迎え、お(いえ)の明日を切り拓くぞ。

 カルディコットが要らぬと言うなら、スジラド殿はタジマが貰い受ける」


 怒りに我が身を律しかね、酸欠の金魚宜しく口をパクパクさせるジェイバート。


「ふん!」

 モリが軽蔑の眼差しでジェイバートを睨んだのが機だった。

「掛かれ! 謀叛人共を討ち果たせ!」

 ロングソードを(さい)の如く振りて示す。


 一瞬遅れて、追手達が馬に拍車を掛けようとしたその瞬間。

「慮外者! そんなくだらない事で、他人を巻き込むなぁ!」

 スジラドが、身体から怒りの電流を(ほとばし)らせながら()った。

 天もスジラドに答えるかの様に黒雲を呼び、遠雷が轟く。


 動き出そうとした追手の騎馬はこの瞬間凍り付き、騎士達もまたスジラドの威に飲み込まれた。


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