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誘拐-02

●ネル様ダッシュ!

「ネル様ぁ~!」

「待ってぇ~!」

 慌てて追いかけるデレックと僕。速駆けの得意なネル様が、見る見る距離を離して行く。

 風を蹴って走るスピードに、僕達は角を曲がったネル様を見失って仕舞った。

「ちっ。分かれ道か。スジラドは右だ。俺は左を探す」

 手分けして追い掛ける僕達。


「ここはどこだろう?」

 ネル様を探す内に、僕は酷く寂れた場所に入り込んでしまっていた。


 路地に座り込んで熟柿のような安酒の臭いを撒き散らしている男。痩せこけた身体で、長煙管を吸っている女の人。いかにもやばそうな場所である。

 裸足で襤褸(ぼろ)を纏った裸同然の子供達。売り上げを待つ檻の中のモノビトの方が、よっぽど良い物を着ている。


『ここがスラム街と言う所なのか?』

 身構える僕の真後ろに、

「坊や、何をそんなに警戒しているんだい?」

 いきなり現れたローブの男。しかもフードを目深に被り怪しいことこの上ない。

 護身の木剣を抜こうとして、

「ええっ!」

 束に触れた手を掌で制された。


「危ないな。木剣と言えどもむやみやたらと抜くものじゃないよ」

 言葉穏やかにして敵意は微塵も感じられない。

 警戒しつつも僕は束から手を離した。


 男は一歩後ろに退くと、

「判ってくれて何よりだ。でもね。いくら迷子になって心細いとしても、慌ててはいけないよ。番所まで送ってあげるから」

 と諭すように話す。

「迷子じゃないよ」

 僕が言うと、

「では逃げ出したのかい? だったら追手が手を出せない所まで逃がしてあげよう」

 と言って来る。

「逃げて無いよ。どうしてそう思ったのさ?」

「見たところ君はモノビトの子だね。それも貴族か金持ちに飼われている」

 こくんと頷くと、男はそのまま言葉を続ける。

「安心しなさい。君がモノビトである以上手出しはされないよ。君の(あるじ)にケンカを売ることになるからね。力の無い平民より安全さ。ああ、君が主のお気に入りと言うことは、着ている服の出来を見れば判るんだ」


 ローブの男は僕の疑問を先回りするかの様に話を続ける。

 奇妙な奴だ。子供の視線から見上げても、目から上はフードの影に溶け込む様に見えない。

 ポツポツと無精ヒゲを生やしたアゴと口。声は若くは無いが張りがあり、年寄りでは無いだろう。


 あちらの意図を量りかねて暫く時を過ごしていると、初めからの予定だったのだろう。

「おーい! 甘~い甘~いジュースだよ」

 男はリンリンと鈴を鳴らしながら襤褸の子達に手招きを始めた。途端に、わーっと(たか)る子供達。

 殆どが女の子だ。けれどちっちゃな男の子を連れた女の子や、反対に妹らしき女の子の手を引いて来た男の子もいる。

「欲しいなら君もおいでよ。来る者は拒まない、それが教団の教えなのだから」

 こう言い捨ててローブの男は、

「おーい! 甘~い甘~いジュースだよ」

 子供を集めながら歩いて行く。


 僕の記憶には、ここと違う世界の物がある。先進国と呼ばれる国に生まれた僕は、着る物も食る物も住む所も、この世界の貴族よりも恵まれていた。当たり前のように教育を受け、当たり前のように暮らしていた。

 その時、聞いたことが有る。発展途上国へボランティアで行っていた、顔も名前も忘れてしまった友達の言葉だ。

「現地で子供にジュースを与えてはいけない。その子はジュースに夢中になって、飲む為に何でもするようになってしまうから」

 その時はふ~んと聞き流していたが、彼がやっていることはまさにそれだ。

「ちょ……」

 慌てて追いかけると。ハーメルンの笛吹き男よろしく子供達を集めながらスラムを進んで行く。

 そうして行き付いた先は崩れ掛けてる廃屋だった。そして中から子供達の声が。


 そこでは、幼い子供達が純潔を散らしていた……。

 と言う事はまるでなくて予想外の光景が。


「ネル様。なんでここに?」

「あらスジラド。遅かったわね」

 石盤にロウ石で文字の練習をしている子供達の、先生をしているネル様が居た。


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