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千年の樹-05

●再会天秤棒

「先生が、案内して来なさいって。こっちだよ」

 お使いに行ってくれた子に手を引かれ、カラタチの生垣を抜ける。

 そこで漸く院長先生に面会すると、早々に鳩を飛ばして貰える段取りとなった。


 そして与えられた奥の部屋で寛いでいると。

「ちわっす」

「えーと。確かスジラドが雇った家来よね」

 昔あたしの救出に関わった縁で、スジラドの家来になった子だ。あたしは記憶の中から一つの名前を引っ張り出す。


「確か、天秤棒のリョウタだったわね」

「おおっ! 感激ですネル姫様。よくぞおいらの様な又者(またもの)の名を」


 良かった。当たってた。

 名前とどう言う人かを覚えるのも貴族の倣いだもの。他家のは偉い人や主だった人だけ覚えてさえいれば、後は御付きの家来が教えてくれる。だけど家中の事は、自分で覚えていないと拙いとサンドラ先生も言っていた。

 だいいちどうでも良い人じゃない。命の恩人の名前を忘れちゃ拙いでしょ。


「もうお昼よ。一緒に食事しながら話しましょう」

「良いんですか姫様」

 聞き返すリョウタ。

 確かに身分で言うと一緒に食事するのは憚られる。スジラドがモノビトの時は子供だったし、あくまでもあたしの片腕と成るべき家来だったから許された事だ。

 だけどあたしとデレックには、そうした方が都合よい理由があった。


「だって、もうあんたの分も用意してあるわ」

 そう。買い過ぎてしまった串やお好み焼きの始末、腐らせるのも勿体ない。さりとて売り子に上げるのも筋として変よ。丁度どうしようかと頭を抱えていた所だった。


「遠慮しないでもっと食べなさい。あんたは身体が資本でしょ?」

「恐悦至極です」


 おためごかしに、次々と食べきれない食べ物を押し付ける。

 リョウタはまだ成長期なので、本当に感心するくらい良く食べる。

 だからあたしも後ろめたさを感じずに、これでもくらぇ・死んでもしらねぇ・信じられねぇと、並の六倍、九倍、十二倍と盛り付けた。


 互いの近況を語り合いながら食事をする。


 リョウタが纏めている一党は、ネーリ師匠曰く

「戦に出しても犬死にしない程度の腕前には成った」

 との事。

 リョウタも功を焦って先走りさえしなければ、そこらの雑兵なら百人纏めて相手にしても負ける事はないそうだ。

「ただね。おいらは馬上の戦いは苦手でやして、戦うなら馬から降りろと言われやした。

 その分、徒歩立ちの戦いならば任してくだせぇ。敵が馬上槍の使い手でも引けはとりやせんですぜ」


「誰にでも得手不得手はあるものよ。あたしも弓なら一端の腕だけど、剣も槍も取り敢えず使えるだけよ」


「御謙遜を。姫様は弓の名手と評判ですぜ。一町先の親指と人差し指で持った一文銅貨の穴を射抜くとか、的に刺さった矢の矢筈(やはず)のを射抜く事七連と言うじゃねぇですか。最早名人達人の域ですぜ」


 あたしにとっては、素の実力よりも風の加護の方が大きいと思うから、誉められてもあまり嬉しくない。

 でも事実を事実として褒められている以上、不機嫌な顔なんて以ての外よね。


 そんなこんなで、笑みを作って聞いていると、

「そう言や、うちの大将が見えやせんが。今どちらの方に?」


 あ、嫌だ。どうにもこうにも表情が自儘にならない。声も段々とぶっきら棒に為って行く。

 それでもどうにか折り合いを付けようと頑張るけど……もう駄目だ。

「……スジラド」

 とても冷たい声が、あたしの内から響いて来た。


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