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追手との戦い-01

●襲撃計画

 じゃんけんの結果。俺が顛末の見届け役で、ハヤトが負傷者の後送と親父への報告係になった。

 ジェイバードから今後の予定を詳しく聞いているから、部隊として行動する彼らの先回りは至極簡単。僅かな供回りで行動すればこのように、容易く先回りも出来る。


 ネル殿達が神殿を目指すならば、襲撃に好き場所がある。

 馬手(めて)薮沢(そうたく)弓手(ゆんで)壟断(ろうだん)

 街道から見て左の丘陵を廻る様に、狭間の荒野に沿って伸びる道は馬車の動きを制限する隘路(あいろ)に成っている。


 凡そ二キロの道程は、神殿に至る難所の一つ。

 別に道が無い訳でも無いが、距離が長くなる上に川沿の石河原を行く道だ。一雨降れば川底に成り、大雨が降れば濁流に見舞われる危険な道だ。沢歩きに慣れた遍歴修行の者でも無ければ先ずこの道は選ばない。


 さて。本来街道は山を穿ち谷を埋めたり橋を架け、デコボコの地形を均して出来る限り真っ直ぐに引いて行くものであるのに、なぜこのようになっているのか?

 理由は簡単、丘陵の大半が竹林であるからだ。竹林の下の地層は脆く簡単に落盤を起こす。こう言う地盤は現代日本でも難渋する工事で、維持コストも高い。

 だから已む無くこのような次第になっているのだろう。そう俺は思う。


「おや、モリ殿。参られたか。しかしマントは兎も角、その(とう)(かしら)と仮面は……」

 機嫌の良いジェイバードが、鐙を外して出迎えた。

「親父の言い付けで、見届けねば為らぬからな。

 命により御尊家(ごそんけ)の兵馬輜重を運んだが、弊家(へいけ)も共にネル様の恨みを買う義理までは無い。その為よ」

 こちらは鐙を踏んだままだが、ジェイバードの俺を侮る心根もあって咎めだては無い。

 実際、俺が(おか)で戦って勝てる相手では無いのは事実ではある。


「どうですかな? ここに先程交代した兵を伏せて置き、後ろから騎馬で追い込んで逆落としに襲撃を加え分断する。

 足を止めた後で歩いて薮沢に遁れる所を、あれに伏せたカンジキ履きの徒歩(かち)で捕縛致します」

 得意げに、取り持てる末弭(うらはず)で示すジェイバード。


「上手く行くといいな」

 社交辞令で口にするが、ここを襲撃地点にしたジェイバードは武勇だけの男ではない。

 高地を占めて戦場を俯瞰(ふかん)するあたり中々のもの。

 陸戦では地の利が高い価値を持つ。地形の活用が兵数を覆してしまう程なのだから。


(おんみ)もここから御覧(ごろう)じろ。間も無く面白き見世物が始まりますぞ」

 その顔は自信に満ち溢れていた。


 果たして。ジェイバードの策は大当たりだ。

 眼下に広がる狙い通りの進行。


「ははは。文官共は拙者らを指導の足りぬ脳筋と抜かすが、半熟文例(はんじゅくぶんれい)に疎いだけで、兵書くらい嗜んでいるんだ。はっはっはっはっ」

 小気味よいくらい高笑い。


 俺はとてもうずうずして、『それを言うなら繁文縟礼(はんぶんじょくれい)だろうが』

 そう口にし掛けたが辛うじて、

「ああ。そうだな……」

 と思い留まる。


 しかし妙だ。戦場を俯瞰していた俺は、あまりにも上手く行き過ぎていることに違和感を感じた。


 伝え聞くスジラド殿は、まるで俯瞰するかのように戦場を把握すると言う。

 またハガネモリビト達も、この道を行くならここが難所と思い定める筈。


 戦いとは夫婦の機微に似て、お互いの動きあってのものだから、ここまで一方的な展開になるなどありえないのだ。

「うーむ」

 現実に上手く行っているのは間違いない。しかし、馬車の動きに迷いと言うものが感じられない。

 後一手、ジェイバードの逆落としが決まれば王手詰みだと言うのに。


「善し! 今だ!」

 ラッパを高らかに吹き鳴らし、ジェイバードは六十度に(なりな)んとする急斜面を駆け下って行く。

 そしてその高さを速さに変換した勢いを以て、ネル殿の居る馬車の前方を(やく)した。


「ふ……」

 空しい(わら)いが唇を()いた。

「俺を娶せようと考えるなんて、親父も焼きが回ったな」

 正直、期待外れだった。でもまあ、これで野郎と結婚させられられずに済む。

 迷信通りハヤトと形ばかりの結婚をして、跡継ぎはハヤトの側室に産ませればいいか……。

 そんな考えを巡らせた時。


「何だ! あれは……」

 俺はこの目を疑った。


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