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諸家の動き-03

●双子の理由

 タジマの戦船は地球で言うバイキング船にマストが一本増え、三角帆と竹のブラインド型の帆が追加された物である。操作こそ難しいが、裏帆を打たない竹の帆や横風を有効に使う三角帆は、他家の船など及びもつかぬ程に風に対して自由な航行を実現した。

 船体も軽く速度を増すほどに水の抵抗が減る仕組みの為、櫂走においても他の追随を許さない。


 欠点と言えば船倉の積載量の少なさ位だろう。しかしこれは独特の形の箱舟を戦船で曳航することにより補っている。


「やっと行ったか」

 ジェイバートを送り出した後。派遣されたタジマ水軍の大将であるモリは、キツイ表情を和らげた。

「どうしたもんだろうね。ハヤト」

 モリが船倉に向かって呼び掛けると、

「親父の言う通りにするしかないだろ?」

 顔を覗かせたのはモリとそっくりな顔。


「そうだな。伯爵閣下がお亡くなりに成られてから、どうも不可解な事が多過ぎる。

 いや、不可解なのは前からか」

「そんな話はどこにでもある。だいたいなモリ、うちだってそうだろう」

「違いねぇ」


 もうゴマ粒ほどになったジェイバート達を見ながら、笑い合う二人。背格好も大して変わらないから二人並ぶと見分けが付かない程だ。


「その目でスジラドを値踏みして来い。と、親父の野郎は言ってたが、どんな奴なんだろうねハヤト」

端倪(たんげい)すべからざる(おとこ)とは言っていたな。でもあの惚れ込み様。お前婿にでも考えてるんじゃないのか?」

 ふっとハヤトが鼻で笑うと。

「やめてよハヤト。俺は男だって言ってるだろ? 貰うなら嫁だよ」

 嫌そうに返す。


「難儀だなぁ。男の記憶を持って女に生まれて来るなんて」

「笑うな! ハヤトお前、絶対面白がってるだろう!」

 するとハヤトは急に真面目くさった顔に成り、

「マジな話。モリが自分で婿見つけねぇと、俺もヤバイ」

「解ってるよ……。さもなきゃ、ハヤトと夫婦にさせられる。

 ここの迷信は何なんだよ」


 男女の双子は前世で結ばれなかった恋人の生まれ変わり。そんな言い伝えがクオンにはあり、事情が許せば夫婦にしてやるのが望ましいと言う風潮がある。

 モリの場合。親が勧めた婚約全てに難色を示し、かと言って心に思う男も居ないようなので、目下ハヤトに娶せる方向で話が進んでいるらしい。


「それはそうと。ハヤトはどう思う?」

「ん?」


 モリは頭嚢(ずのう)を整理しながら話す。

「誰が利益を得たかで犯人を推定する方法が有るけれど」

「ああ、それな。親父も全てを掴んでる訳じゃないけれど、アイザック殿もフィン殿もそれで利益を得た形跡が無いもんなぁ」

 ハヤトも会話を通して分析して行く。


「「おまけに、どちらも相手を討とうと言う気配もない」」

 二人は顔を見合わせる。どう見ても不可解としか言いようが無い。


「誰が損をしたかで、そこから紐解いて行くのはどうだ?」

「割を食った一人はネル殿だ。ジェイバートのせいで今、逃避行の真っ最中」

 ハヤトの提案にモリは続ける。


「ネル殿のあれは、家督争いを避ける為だろう。女子の家督相続序列は庶子の男子に劣るし、歳だって一番下だもんなぁ。

 割りを食ったのは間違いないが、そう立場が変わった訳じゃない。今回の話で一番影響を受けたのは」

「スジラド殿」

 ハヤトの問いに判り切った答えをモリは返す。

「だよなぁ~」

 他にいるかとハヤトは溜息。


 正式には自由民であるとは言え、当主変死の煽りを受けて立場が変転したのがモノビト上がりのスジラドだ。

 いかに功名著しと(いえど)も、皆が実は伯の御落胤(ごらくいん)では? と陰で噂する程の耳目を驚かす引き立てだった。

 久しく誕生しなかった魔物からの解放領域。功により幼くしてそれを与えられたスジラドは、この(たび)やっと成人したばかりの若者だ。壮年になる頃には押しも押されぬ大領主と成り得ただろう。


「なぁハヤト」

「うん?」


「俺達みたいな男女の双子は例外として、同腹でなければ結婚OKだったんだよな」

「ああ。だから将来はネル殿と娶せて一家を立てさせるんじゃないかと言う話もあった。

 あくまでも噂に過ぎないけどな」


「うーむ」

 モリは唸る。


 放置しておけば北の領地の大領主とも言える立場になる。立場的にはネルとの婚姻も可能になるのだ。

 そして仮に御落胤だと仮定しても腹違いだから、正室の子のネル殿が相手でも障りない。

 下手人はそれを妨害したとすれば……。可能性としてはあり得るか。


「なぁハヤト。でもその為に伯を殺すと言う事は、どれだけ裏で動いてる?

 弓の貴族の名門・カルディコット伯爵家が迷走すれば、当に御国(みくに)の一大事。

 国家の安危に関わる事案なんだぞ」

「まぁな。本当は良い機会だからと親父が直に動きたかったんだが……」


「フィン殿から釘を刺された。親父が動けば他家も動き始めると」

「俺達も親父に同じ理由でスジラド殿と直接接触するなと言われたし」

「そのくせ、ネル殿は兎も角スジラド殿は必ず押さえろと言う密書が、アイザック殿から届く始末」

「え? 俺はフィン殿から届いたと聞いたぞ」

 錯綜する情報に、声からも苛立っていることが判る兄妹の会話。


「おまけになぜか……」

「「兵数の上限まで注文が付いた」」

 二人の声はまたも唱和した。


「いずれにしても、お(いえ)の為、この機を逃す手はないな」

 モリが言うと頷いたハヤトは拳を握り、

「それじゃどっちがどうするか決めよう。最初はグー!」

「「じゃんけんポン!」」

 二人を見つめるタジマの勇士達が笑った。


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