博奕のソロバン-05
●契約金
「示せますかねー。奇貨居くべしとは言いますが、博奕に見合うだけのものがあるんですかー?」
挑発するように聞いて来るスズネさん。
「うんあるよ」
僕は答える。
今直ぐ提示できる確かな担保。それはある。もう反則だって言うレベルの物がある。
「では、こちらへ」
僕は背を向けて乗って来た馬車の所まで近寄ると、
「これが、この馬車が担保になります」
ざわつく隊商の人々。
「なるほど立派な馬車ですねー。けれどもこれのどこにそんな価値があるんですかー?」
当然の事だけれど説明を求められた。
「論より証拠です。それを実際にお見せします。
先ずは乗ってください。スズネさん含め五人ばかり」
僕は馬車の中を案内する。
「これらはカサンドラ導師謹製です」
水の出る蛇口・炎の出ないコンロ・揺らがない明かり。そして冷暖房と言ったマジックアイテムの数々。
「こちらは空間を有効活用する仕組みです」
左右二段合計四本のハンモッグ。この世界では船は小さなものだから、まだこいつは一般的じゃない。だから、
「これは何なのだね」
使い方を聞かれた。
「こうやって使う寝具です」
慣れないと潜り込むのも一苦労だけれどね。狭い空間を有効活用する為には不可欠のものだ。
「不要の時は、畳んで仕舞えますよ」
と僕が床下の収納から予備のハンモッグを取り出すと、
「面白い品物だな」
やはり商人。直ぐに価値を把握した。
「タケシ! この辺の荒れ地を適当に回って」
動き出した馬車は、岩だらけの道なき道を一巡り。
「これは……。魔法の絨毯で浮いているのですかー」
皆がそう言う位、振動が少なかった。
「カサンドラ導師の馬車を基本に、魔改造しています」
ゴム相当素材であるアラクネシルクの空気タイヤ。超々ジュラルミン相当の軽量化素材。
火星探検車を思い出す六輪にはシャーマン戦車並みのサスペンション。
等々、物理的な技術に加え魔法での軽量化を施した逸品だ。
タケシを馬車から外し、代わりに僕が牽いて見せたり、スズネさん達に引っ張って貰う事により、馬車の反則さを実感して貰った。
「こんな技術があれば、どれだけ積載量が増やせるか」
「しかも雲の上に載って居るようだ。壊れ物も破損を気にせず運べるぞ」
「しかし高価な一品物だ」
「いや、充分元は取れる」
騒めく隊商の皆様方。
「そしてこう言う事も……」
サンドラ先生の技術にマコトの知識を積み増した、チートな新機軸について耳打ちする。
目をぱちくりしながら、暫く声も出ないスズネさん。
やっとの事で出した声は、
「秘匿技術の塊なんですね?」
「はい。ちょっと表には出せない代物です」
僕の説明に、隊商団長のスズネさんは再び見えないソロバンを、パチパチと弾き始めていた。
「私は前カルディコット伯の牙符を担保に寄越すと思ってたんですよー」
馬車の価値を認めたスズネさんは、残念そうに言う。
新宇佐村隣接未開拓地切り取り次第の牙符。確かにこれも担保としての価値は高い。
だけど今これを渡すのは微妙なんだよね。
本日誕生日。
お祝いメッセージを頂いた皆様、ありがとうございます。





