博奕のソロバン-01
●商品は刀
一先ずの危機は去った。
図らずも、中央の刀筆の貴族の息の掛ったハガネモリビトを襲う形になってしまった追手は、殲滅は無理と判断した段階で逃げを打った。
戦いが長引けば目撃者も増える。その目撃者を全て抹殺するなど烏滸の沙汰。
なにせ神殿に程近い街道である。神殿騎士団の警邏も通れば、他のハガネモリビトも通る。あの厄介極まりない権伴や他家の七五三に向かう貴族子弟とその護衛も通る。
下手を打てばどれだけ敵を増やすか、想像も付かない底なし沼に足を突っ込みかねないのだ。
「あれは兄上の所のジェイバードのようだね。流石に大合従を引き起こす愚は避けたか」
チャック様は僕に今の状況を説明する。
「じゃあ僕はここで離脱するよ。あくまでも、この隊商がたまたま通りかかって襲われた態を取らなきゃいけないんだ。特に僕が君達に関わっていると言う事は内緒だよ。他に知れたら、あちこち巻き込んで酷い事に為るからね。
あーあ。それにしても当てが外れたよ商売は」
「どうしたんですか?」
僕が訊くと、
「北の開拓地に売り込みに行く武器がね。北の冬の寒さに耐えられないようなんだ。
最悪だったのは大砲用の火薬かな? 練って形成してあるんたけれど、冬の寒さに遭うと、ちょっとした衝撃で粉末化する。そいつを爆発させると予想外の強力な爆発を起こし、大砲が暴発するのさ」
あー。なんか聞いたことある。と言ってもマコトの方の記憶だけれど。
零下二十度を超える寒さに、銃弾の推進薬が変質して暴発起こしちゃうって話。
熱帯のジャングルや熱砂の砂漠で抜群の安定性を発揮した弾だったので、その戦争が終わるまでは気が付かなかったと。
「それって工事用には使えませんか? 岩を砕いたり固い大地を掘り起こしたりするのに使うんです」
するとチャック様はふむと考え、
「残念だけど、工事用の爆薬程の力は無いね。間に合わせには使えるだろうけれど、衝撃で爆発するのは廃油爆薬と同じだし」
と否定した。
「廃油爆薬?」
「石鹸を作った後の廃液から作る爆薬さ。とても鋭敏なものだけれど爆発力は保証付き。
ただね。本当にちょっとした衝撃で直ぐドカンとやらかす、危険極まりない代物なんだ。
必要な時は現地で作成してその場で使い切る。他所へ運ぼうなんて不可能だね」
石鹸を作った廃液から作る爆薬。それってつまりニトログリセリン。でも搬送手段がないって……。
この世界ではダイナマイトはまだ無いんだ。
「チャック様。廃油爆薬って簡単に作れるんですか? 」
「作るのは土魔法の錬金で簡単だよ。作るだけなら安全さ。だけど出来上がった物を安全に扱うのが無理なんだよ」
「チャック様。お耳を……」
珪藻土に染み込ませると、衝撃で爆発しない安全な物になる。そう耳打ちした。
「なるほど。サンドラ先生の研究かい? 実験してみる価値はありそうだね」
「少量で配合率を試して行く必要はありますね。僕も実験室的にしか知りませんから」
サンドラ先生ごめんなさい。僕は心の中で合掌した。
「所でチャック様。不良在庫を抱える位なら、僕に任せて頂けませんか?
少し投げ売りっぽくなりますが、早く捌けると思います」
お陰様で入院は免れました。
しかし色々と医師の指示を受け休養モードに入ります。
更新頻度が落ちますのでご容赦ください。





