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動乱の始まり-05

●タリホー

『おいおい。ここを降るのか』

『タケシなら大丈夫でしょ』

『ったりめぇーよー』

 交わす念話。


「はーい!」

 急峻な岩山の崖を縫う様に、一気に降る。

 スピードを緩めると馬車が馬を圧し潰してしまう。だから一気に抜けなくちゃならない。


「きゃあ!」

 身体が浮き上がる感じに、後ろからネル様の悲鳴が上がる。なにせ最大傾斜六十度。感覚はほぼ真っ逆さまに落ちて行く感じだ。


 それでも流石サンドラ先生の馬車を、マコトの知識を加えて変態レベルに魔改造した代物だ。

 このデコボコ道を吸い付くように車輪が捉え上下の揺れは意外と少ない。


 平地に降りたその後も勢いのまま突っ走る。下手に減速すると馬が馬車に轢かれるのもあるけれど、上から見えた一備えの軍勢が、僕達の行く手を遮ろうとしているからだ。

 僕達の予想外の猛スピードに遠目にも敵の狼狽が見える。


 だよね。タケシが凄いのもあるけれど、鋼の鎧に見える物が実はスポンジのようなEVA素材で出来ているように思える位、魔法で軽量化されているんだもの。慌てて放って来た矢も遥か後方に流れて行く。


「ターリホー!」

 あ、重装騎兵が十数騎、長槍を揃えた矢の陣形で間に割り込んだ。馬では無くロバに牽引された十五台の小振りの馬車もその後に続く。

 その内一騎がこちらに向かって来る。残りの者で軍勢を僕達から遮る形になった彼らは、連ねた馬車で壁を作り左右を重装騎兵が固めた。


 近づいた重曹騎兵は楯を掲げ紋章を見せ、バシネットと言う兜のバイザーを跳ね上げて一瞬だけ顔を晒す。


「チャ……」

「しっ。その先を言っちゃいけないよ」

 僕の声を遮って、

「今僕の名前が出ただけで大事(おおごと)になるからね。僕はここに来てないことになって居る」

 チャック様はそう忠告する。そして、あたかも主筋からの指令を受けているかのように大声を張り上げた。


「主家の()ってのご依頼に、夜を日に継いで駆け付けたけれど。どうやら間に合ったようだね。任せておきな。流石にあれは君達の手に余る」

 馬を返して馬車と並走させつつチャック様は、追手の連中に聞かせるために叫ぶ。

「助かります」

 僕は少しずつスピードを緩めた。


●スジラド恐るべし

「……合流されてしまった」

 ジェイバートの手がわなわなと震える。


 合流しても相手は小勢に過ぎないが、一町先に見えるのは陽を受けて照り映える鋼の鎧。人馬共に堅甲で鎧ったその姿は紛れも無く、刀筆の貴族と結びついた武装商人・ハガネモリビト。


「あれが噂に聞くハガネモリビトの戦車陣か」


 特殊な馬車を連ね、忽ち平地に城壁を作り上げる奴らの手。今回は小規模の隊商だから、完成しても小振りな砦を(かたど)る程度だが、野戦の備えしかしていないジェイバート達の手に余る物だ。


「隊長、どうしますか?」

「見ろ、鋼の延べ板で覆われて行く。馬車の下も垂らした分厚い板で隠されている。

 さらに人が身体を横にして漸く隙間に入り込める間隔で突き出されたパイク。

 あれでは騎馬の衝力は意味を成さん。

 と言って矢戦をするにも、剥き出しの我らと壁に護られた奴らとでは勝負に為らん」


 奴らが人馬の衝力を跳ね返し矢の嵐を物ともしない馬車の矢狭間から、強力なバリスタやクロスボゥを放って来る戦法を取る事は有名だった。

 ジェイバートが任された兵で攻略するには、迂回して側背を突くしかない。しかしその間に、今は一直線の壁でしかない物が一個の小規模な砦に姿を変える事だろう。


「今の動き、明らかに六輪馬車の救援だ」

 呟くジェイバートは、

「隊長!」

 自分を呼ばわる声に我に返った。


「仕掛けるな。圧し(ひし)ぐには兵が足らぬ」

 アイザックからは大将の器に非ずと言われるジェイバートであったが、これでも一隊を任される人物。戦場での駆け引きを解す程には経験を積んでいた。


 さて、その少し後ろの繁みの中に身を潜める小隊があった。

 皆、仮面舞踏会のようなマスクで顔を隠し、緑色のマントを纏って居る。

「最早手出し出来ませんな。急ぎ事の次第を報告しませんと」

 隊長らしき小柄な者がそう呟き、皆に小声で差配すると。手の者達は蜘蛛の子を散らす様に散って行く。


「ジェイバート殿も、思ったよりは賢かったと言う事ですか」

 その呟きは、広野(ひろの)を渡る風に乗る事も無く散る。

 そして一陣の風が通り過ぎ辺りの草の波が掛け比べを演じると、彼の姿はどこにも見えなかった。



 一日後、カルディコットの館。

 報告を聞いたフィンは唸る。


「既にそんな手回しまで……。流石と言うか、親父や兄貴の肩入れするだけの人物と言う事か。あいつは本当に十五なのか?」


 脱出経路と言い、援軍の手配と言い。スジラドの采配は神懸かって居た。


「直ぐ、増援を送る。神殿への警戒も強めよ」

 フィンは少し甲高くなった声で、報告者に告げた。


皆様ご心配を掛けました。

地震のため41時間停電。やっと電力回復しました。

被災地・大病院・鉄道・地下鉄&路面電車が優先の為、地震の直接被害皆無の自宅はここまで後回しに成ったのも仕方ないですね。


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